市中肺炎減少、軽症患者の受診控えや行動変容に伴う肺炎発症減少などが寄与した可能性
京都大学は5月10日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が市中肺炎の緊急入院に与えた影響を検証し、市中肺炎の減少は軽症患者の受診控え、行動変容に伴う肺炎発症の減少などが寄与した可能性があることを発表した。この研究は、同大大学院医学研究科医療経済学分野の今中雄一教授、國澤進准教授、長野広之大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Infectious Disease」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
市中肺炎は病院外で発症した下気道感染症と定義され、高齢者に多く、入院や死亡の原因となる。日本では、2019年の死因第5位が肺炎だった。肺炎の発症には年齢、慢性呼吸器疾患などの併存症、喫煙、ウイルス感染などが関係しているといわれている。海外の報告ではCOVID-19流行に伴い、市中肺炎の入院、外来患者数の減少が報告されていたが、どのような重症度の市中肺炎が影響を受けたのかについては検証されていなかった。
今回研究グループは、Quality Indicator/Improvement Project(QIP)のデータベースを用いて、入院日または受診日が2019年8月1日~2020年7月31日の市中肺炎の緊急入院数、それ以外の原因での緊急入院数、外来で新規に診断された肺炎の病名の数を入院日または受診日が2018年8月1日から2019年7月31日の症例と比較。肺炎の緊急入院については、重症度や併存症の背景を調べた。
軽症の中でも、慢性呼吸器疾患併存症の入院割合「減」
研究の結果、COVID-19流行時の2020年3〜7月に、市中肺炎の緊急入院は前年と比較し大きく減少(−45.2%)。一方で、その他の疾患による緊急入院は一時的な減少にとどまっていた。新規に診断された肺炎病名も、同時期に減少していた(−20.4%)。
また、肺炎の重症度分類A-DROPで分類すると、軽症例(A-DROPスコア0点)で入院数の前年比の減少は大きい結果だった(軽症−55.2%、中等症−45.8%、重症−39.4%、超重症−33.2%)。軽症の中でも、慢性呼吸器疾患を併存症として持つ入院の割合が減少していたという。
市中肺炎の減少は、軽症患者の受診控え、行動変容に伴う肺炎発症の減少などが寄与したのではないかと考えられるという。
肺炎入院患者「減」継続の可能性、今後も研究を
患者の行動変容が肺炎減少の原因であれば、今後も手指衛生、マスク着用などの変容した行動が続いた場合、肺炎入院患者の減少は継続する可能性がある。
この減少が肺炎患者のアウトカムや医療システムに長期的にどのような影響を与えていくかについて、今後も研究が望まれる、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都大学 最新の研究成果を知る