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学習時の刺激により、脳内のタンパク質が集合体を形成することを発見-京大ほか

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2021年05月06日 AM11:00

細胞内タンパク質の振る舞い「液-液相分離」による集合体形成に注目

京都大学は4月30日、学習時の刺激により脳内のタンパク質が集合体を形成することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の林康紀教授、細川智永特定研究員(研究当時、現:名古屋大学講師)、劉品吾博士課程学生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Neuroscience」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

シナプスの可塑性は学習と記憶の基盤メカニズムであると考えられているが、シナプス長期増強が瞬時に成立し、かつ永続する分子機構は不明だった。近年、細胞内におけるタンパク質の新しい振る舞いとして、液-液相分離による集合体形成が注目されている。細胞生物学における液-液相分離とは、細胞質中でタンパク質や核酸が液体としての性質を持つ集合体を形成する現象であり、脂質二重膜で区切られていないにも関わらず、細胞質から明確に分離して安定するこの集合体は、新奇な役割を持つ膜のないオルガネラとして注目されている。

研究グループは、この集合体がダイナミクスと永続性を両立することが要求されるシナプス可塑性のための理想的な性質を持っていることに注目した。シナプス活動によるカルシウムイオンの細胞内流入が記憶形成のトリガーであることはよく知られているが、カルシウム依存性キナーゼがシナプスタンパク質群の集合体形成に中心的な役割を果たすとの仮説を立て、研究を行った。

集合体形成でシナプスタンパク質の局在を整列し、シナプス情報伝達の効率を強化

カルシウム依存性キナーゼと代表的なシナプスタンパク質である精製タンパク質を混合し、カルシウムイオンを試験管内で添加したところ、液-液相分離による集合体形成が観察された。さらに、この集合体はカルシウムイオンを除去しても持続する可塑性を持っていることが確認された。また、複数のシナプスタンパク質群が混在する環境下では、集合体内にさらに別のタンパク質が集合を形成する相内相が形成された。このことは、タンパク質のみで複雑な構造を持つ細胞内構造体を形成できることを示しているという。

そこで研究グループは、超高解像顕微鏡を用いてシナプスを観察し、この集合体形成の生理的意義を調べた。その結果、集合体形成により、後シナプスタンパク質の局在と前シナプスタンパク質の局在を整列し、シナプス情報伝達の効率を強化していることが示唆された。これらの結果は、シナプス可塑性および記憶形成の新しい分子機構を提示し、アルツハイマー病などの記憶障害の治療に向けた取り組みを大きく前進するものだとしている。

今回発見された機構が、アルツハイマー病などの治療に役立つ可能性

今回の研究成果により、記憶の形成・維持を担う新しい分子機構が提案された。液-液相分離によるタンパク質集合体の離合集散は、小分子やペプチドによって制御できることが示唆されており、記憶障害を伴う疾患の治療法確立への応用が期待できる。また、光でタンパク質の活性や局在を制御する光遺伝学の技術と相性が良く、記憶研究の新たなツールとして活躍することが期待される。一方で、実際にシナプスで集合体を形成しているタンパク質の種類は数百種類と考えられているが、これら一つひとつの挙動を理解しなければ、記憶の分子機構としての集合体形成を完全に理解することはできない。網羅的な解析手法の開発が望まれる。

「脳細胞の中は水で満たされているが、この集合体は細胞内の水から自発的に分離し集合していた。このようにして分子たち自身が自分の居場所を記憶することで分子の入れ替わりを可能にし、ヒトは記憶を一生涯保つことができる。今回新たに発見した同機構を応用することで、アルツハイマー病などの治療ができるのではないかと期待している」と、研究グループは述べている。

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