ミクログリアとアストロサイトを抑制する分子は?
金沢大学は4月28日、脳のグリア細胞の活性化を抑制することにより神経炎症を抑える働きをする化合物を発見したと発表した。この研究は、同大学医薬保健研究域医学系のRoboon Jureepon博士研究員、服部剛志准教授、堀修教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurochemistry」に掲載されている。
画像はリリースより
神経炎症は中枢神経(脳と脊髄)における免疫応答であり、ミクログリアとアストロサイトによって引き起こされる。神経炎症は通常、病原体の侵入や中枢神経の損傷に応答して一時的に起こるが、慢性的に神経炎症が続くとアルツハイマー病やパーキンソン病のような神経変性疾患の進行に関与することがわかっている。これは、慢性の神経炎症においてミクログリアやアストロサイトが活性化すると、サイトカインや活性酸素を産生し、神経細胞を傷害するためと考えられている。したがって、これらの細胞の活性化を抑制する分子を見つけることが、これらの神経変性疾患の予防や治療法の開発へつながると考えられている。
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)は、細胞におけるエネルギー産生に働く分子。NAD+は加齢とともに低下し、加齢に関連する疾患の発症に重要な役割を担っていると考えられている。動物モデルにおいては、NAD+は老化を遅らせ、筋肉機能を回復させ、アルツハイマー病の病態を改善することが知られている。しかしながら、NAD+が神経炎症に対してどのような効果をもつかは今まで不明だった。
マウスにNR+アピゲニン投与で脳内NAD+増加、神経炎症・障害軽減
研究グループは、NAD+の神経炎症への効果を検証するために、体内でNAD+を増加させる効果を持つ化合物(ニコチンアミドリボシド(NR)およびアピゲニン)をあらかじめ投与したマウスに、薬剤で神経炎症を起こした。すると、これらの化合物の投与により、脳内のNAD+の量が増加し、ミクログリアとアストロサイトの活性化が減少していた。また、その結果、神経炎症とそれによる神経の障害も軽減していた。以上より、NRとアピゲニンは脳内のNAD+の量を増やし、ミクログリアとアストロサイトの活性化を抑制する事により、神経炎症を軽減する効果をもつことがわかった。
神経炎症は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患だけでなく、脳の老化やうつ病の病態にも関与すると言われている。研究グループは、「今後、NRやアピゲニンの上記疾患への効果を検証することで、新たな予防法や治療法の開発につながることが期待される」と、述べている。
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