認知症の重症度と再入院発生リスクとの関連を検討
東京都健康長寿医療センターは4月22日、同センターを退院した65歳以上約9,000人分のレセプト情報を分析し、中等度以上の認知症の可能性がある入院患者は、認知症の可能性がない入院患者に比べると、退院直後に再入院しやすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター研究所の光武誠吾研究員、石崎達郎研究部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Alzheimer’s & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring」に掲載されている。
高齢な患者にとっては、入退院など療養環境が変わること自体が大きな負担になるため、退院直後の再入院は予防すべきと考えられている。入院時から退院直後の再入院のリスクが高い患者を特定し、退院直後の再入院が起きないように対策をとることは重要だ。また、認知症を抱えた患者は療養環境の変化に適応できないこともあるため、認知症のない入院患者に比べると、退院直後の再入院の発生リスクは高いと考えられる。しかし、認知症の重症度と再入院発生リスクとの関連についてはこれまで検討が不十分だった。
「DASC-21」で認知症重症度を判定
研究グループは、入院患者を対象に認知症の重症度と退院直後の再入院(退院後90日以内の予防可能な再入院)の発生との関連を検討した。具体的には、認知症の重症度評価には、「DASC-21」(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items)を用いた。DASC-21は認知機能障害と生活機能障害の程度から、「認知症の可能性なし」「軽度認知症の可能性あり」「中等度認知症の可能性あり」「重度認知症の可能性あり」を判定する。
ここでの軽度とは、時間の見当識・近時記憶(数日の記憶)・問題解決能力・手段的日常生活動作(家事や交通機関の利用などの複雑な日常生活動作)に障害を認める状態のこと。中等度は、時間に加えて場所の見当識障害が現れ、遠隔記憶(発病する前に学習した記憶)・判断力・基本的日常生活動作(移動や入浴など基本的な日常生活動作)に部分的な障害を認める状態。重度は、時間・場所に加えて人物の見当識障害が現れ、遠隔記憶障害・判断力・基本的日常生活動作に全般的な障害を認める状態を指す。
認知症がない患者と比べ、中等度患者で1.4倍、重度患者で2.2倍高い
8,897人の高齢入院患者(平均年齢79.8歳)を分析対象者としたところ、2,880人(32.4%)で認知症の可能性ありと判定された。重症度別では「軽度認知症の可能性あり」850人(9.6%)、「中等度認知症の可能性あり」1,815人(20.4%)、「重度認知症の可能性あり」215人(2.4%)であった。
退院直後に再入院した患者は、分析対象者のうち238人(2.7%)。認知症の重症度別の再入院患者数は、認知症の可能性がない患者で100人(1.7%)、軽度認知症の可能性がある患者で19人(2.2%)、中等度認知症の可能性がある患者で99人(5.5%)、重度認知症の可能性がある患者で20人(9.3%)だった。
性別や年齢などの要因の影響を除いても、退院直後の再入院の発生リスクは、認知症の可能性がない患者よりも、中等度認知症の可能性がある患者で1.4倍、重度認知症の可能性がある患者で2.2倍高いことが認められた。
入院時に移行期ケアプログラムを優先的に提供するなどの予防策を
退院直後の再入院を予防する取り組みの一つに、退院後の生活を見据えた退院計画の作成や地域ケアとの連携、退院後のフォローアップなどを組み合わせた移行期ケアプログラムがある。「中等度以上認知症の可能性がある患者は、入院時に移行期ケアプログラムを優先的に提供する必要性が高い人であると考えられる」と研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター プレスリリース