感染した女性清掃員8人、男性放射線技師1人について調査
国立感染症研究所は4月27日、廃棄物を扱う際に接触感染が疑われた清掃員や医療従事者のSARS-CoV-2感染事例に関する調査報告を、病原微生物検出情報(IASR)の速報として発表した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染経路は飛沫感染が中心だが、接触感染や特殊な環境下での空気感染の可能性が示唆されている。国内で医療機関における感染対策は改善してきているが、アウトブレイク発生医療施設において施設管理にかかわる清掃員や医療従事者の直接的または間接的な接触感染が疑われる感染事例が確認された。今回の報告では、その原因について調査が行われた。
2020年11月20日~2021年2月22日まで、COVID-19アウトブレイクが発生した7施設でRT-PCR検査または抗原検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性が確認された清掃員症例8人と診療放射線技師1人に対し、保健所や病院が集めた情報を収集し、加えて感染者の一部には電話および直接インタビューが実施された。
症例は女性が8人(89%、すべて清掃員)で、残り1人の男性は放射線科技師だった。年齢は中央値67歳(範囲35~74歳)であり、経験年数は1~22年、業務委託会社職員が7人、直接雇用職員が2人だった。COVID-19患者受入施設は1施設あったが、COVID-19患者病棟での業務は行っていなかった。
ほとんどが単独業務、市中感染の可能性も低い
業務内容は、清掃員は患者病室の床やドアノブ・手すりなどの拭きとり清掃、廃棄物収集、トイレ清掃等、放射線技師は放射線同位元素(RI)廃棄物の運搬とRI測定業務であり、7人が単独で業務をしていた。1人が患者ベッドサイドの廃棄物収集業務をしていたが、業務時に患者との会話は無かったとのことであった。半日勤務者4人に休憩室の使用はなく、1日勤務者4人は休憩室と病院の食堂を使用していた。このうち休憩中に同僚と会話をしていたものは2人であった。更衣室での会話は無かったとされていた。ほとんどが単独業務で他職員との接触は限られており、プライベートでの感染の機会は乏しかった。
5施設では年1回程度の一般的な感染対策研修を感染管理担当者が実施していた。個人防護具(personal protective equipment:PPE)は委託業者が費用負担を行っており、清掃担当者は手袋と不織布マスクもしくは紙マスクは使用しているが、ガウンやエプロンは使用していなかった。2施設ではCOVID-19対応として市中感染の流行が始まった2020年11月頃よりマスクに加えてフェイスシールドを着用していた。1施設では使用後のモップを、洗浄した後に逆さにして布部分が上に来るように立てかけて管理しており、周辺道具や身体の汚染があり得る状況であった。放射線技師は使用後のRI廃棄容器を廃棄物保管庫へ運搬し、RI量測定を毎日実施していた。その際はマスクと手袋を使用し、手指衛生は実施していなかった。廃棄物保管庫は換気ができない狭く密閉された空間であった。なお、彼らから感染したと考えられる職場同僚や家族は確認されなかった。
飛沫感染ではなく汚染物品からの接触感染の可能性が高い
事例発生地域では、市中感染より病院や施設における感染が多く、感染した清掃員や放射線科技師は、勤務外での市中活動を否定しており、市中感染の可能性は低いと考えられた。清掃員や放射線科技師の症例は、業務中に不織布マスクもしくは紙マスクを使用し単独で業務を行っており、患者とも直接会話をしたことが確認されず、マスクを業務開始から終了あるいは休憩まで外していなかったことから、会話等による飛沫感染で感染した可能性は低いと考えられた。彼らは、ベッドサイドで患者使用の廃棄物回収やトイレ清掃等、SARS-CoV-2が付着した汚染物品に接触する機会が多く、その際に手袋交換はせず、手指衛生も毎回確実に実施されていなかったため、接触感染で感染した可能性が高いと考えられた。
PPE着脱訓練や手指衛生強化等を定期的に確認する仕組みが重要
感染管理担当者が年1回程度の基本的な感染対策研修は実施していたものの、手指衛生の遵守状況は高いとはいえなかった。また、清掃員は委託業務契約の関係上、COVID-19患者のいないエリアでの業務に限定されたため、国内でCOVID-19が流行してからもCOVID-19に特化した感染対策研修はされていなかった。英国の報告では、病院清掃員の血清抗体保有割合が最も高く(34.5%)、清掃員の血清反応陽性の相対リスクは、患者の診療にあたる医療従事者と比較して2.34倍だった。
国内では、委託業者であってもCOVID-19対応のPPE着脱指導や教育を事前に実施し、陽性患者受入れエリアでの業務を安全に実施しているCOVID-19受け入れ施設もある。委託清掃員に対して、基本的な感染管理の知識習得、適切なPPE着用、手指衛生、清潔な道具の管理に関する訓練をすることで、業務中の感染の危険を低減できると考えられた。また、病院では症例や疑い例からのRI廃棄物の運搬や作業時のPPE着脱訓練および手指衛生強化を定期的に確認していく仕組みが重要である。
日常ゴミ取り扱い後の手洗いも感染予防に重要
SARS-CoV-2の主な感染経路は飛沫感染だが、今回確認された9人のように、直接または間接的な接触によるSARS-CoV-2感染が疑われる症例も報告されている。医療や施設の現場においては、清掃を行うまたは廃棄物を扱う者に対し、PPEの適切な使用と手指衛生に関する研修を受けさせ、厚生労働省がホームページ上に公開しているチェックリストも活用しながら、その徹底的な実施を確認していくことがCOVID-19感染予防に重要である。また、日常生活において清掃を行うまたはゴミを扱う場合にも、適切な手洗いにより感染リスクを減らせる可能性がある。
▼関連リンク
・国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)