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筋損傷へのアイシングが筋再生を遅らせる、遠心性収縮マウスで確認-神戸大ほか

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2021年04月26日 PM12:00

重度な肉離れに近い筋損傷を起こす遠心性収縮モデルマウスで観察

神戸大学は4月23日、遠心性収縮モデルマウスを用いて、筋損傷に対するアイシングが筋再生を遅らせることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院保健学研究科の荒川高光准教授、川島将人博士後期課程大学院生(当時)らと、千葉工業大学の川西範明准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Applied Physiology」にArticles in Pressとしてオンライン掲載されている。


画像はリリースより

骨格筋損傷は、微細なレベルから重大なレベルまで頻繁に生じ、学校の体育現場、スポーツ現場だけでなく、事故や災害による外傷などでも頻発する傷害。その傷害の程度にかかわらず、骨格筋損傷が疑われる時に行われる処置がいわゆる「RICE(ライス)」処置だ。これはRest(安静)、Ice(アイシング)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字を取った処置で、体育やスポーツ、医療の現場でも常識化している。中でも、アイシングはどのような筋損傷であれ良く実施されているが、その長期的効果は不明なところが多く、ほぼ炎症反応の抑制のために用いられている。

しかし、組織損傷後に起こる炎症は身体の中で起こる正常な回復の一過程であり、組織の再生にとって重要な反応であることがわかってきた。すなわち、アイシングで炎症を抑制すると、再生を阻害する可能性がある。実際、筋損傷後にアイシングを施した実験では、筋再生が遅れたという報告と、筋再生を阻害することはなかった、という報告が両方存在する状態だ。しかし、今までの研究では、スポーツ現場で起こるような、筋が収縮して起こる損傷モデルに対するアイシングの効果は検討されたことがなかった。

そこで、今回研究グループは重度な肉離れに近い筋損傷を起こす遠心性収縮モデルマウスを用いて、損傷後にアイシングを施した影響を観察した。

損傷2週間後の再生骨格筋、アイシングをした群は横断面積の小さい再生筋割合が有意に多い

今回、遠心性収縮は、電気刺激によって強制的に筋を働かせている間に、その運動とは反対方向に、より強い力で足関節を運動させることで引き起こし、その後筋を採取。アイシングは、ポリエチレンの袋に氷を入れて皮膚の上から30分間、2時間ごとに3回行い、これを損傷2日後まで継続した。このアイシングの方法は、臨床で行われている通常のやり方を模倣したものだ。

損傷2週間後の再生骨格筋を観察すると、アイシングをした群はアイシングをしていない群に比べて、横断面積の小さい再生筋の割合が有意に多いとわかった。すなわち、アイシングによって骨格筋の再生が遅延している可能性があるとわかった。

炎症性マクロファージの損傷筋貪食が十分に行われず、新規筋細胞の形成が遅れる可能性

次に、ここに至るまでの再生過程で何が起きているのかを調べるため、アイシングを施した群と施していない群の動物で、時間経過を追って筋を採取して調べた。損傷筋の再生過程では、炎症細胞が集まり貪食し、そこに新しい筋が作られていく。アイシングをすると、損傷した筋細胞の中に炎症細胞があまり入っていかないことがわかった。

損傷筋の中に入る代表的な炎症細胞としてマクロファージがあり、マクロファージには主に貪食を行って炎症反応を引き起こす炎症性マクロファージと、炎症反応を抑制し、修復を促す抗炎症性マクロファージが存在する。炎症性マクロファージは抗炎症性へと特性を変えていくことが想定されている。今回、研究グループの実験の結果、アイシングを施すと、炎症性マクロファージの到着が遅れていることがわかった。

これらの結果から、遠心性収縮による重い筋損傷の後にアイシングを施すと、炎症性マクロファージによる損傷筋の貪食が十分に行われず、それが原因で新しい筋細胞の形成が遅れる可能性が示された。

アイシングを施してもよい程度の軽微な筋損傷との線引きなどが今後の課題

スポーツ現場では、損傷の程度に関わらず、「怪我をしたら真っ先にアイシングをする」という考え方が一般的になっている。しかし、今回明らかになったメカニズムにより、重篤な筋損傷ではアイシングは行わないほうが、早期回復が見込める可能性が見出された。

今回のようにアイシングを施すと回復が悪くなってしまう重い筋損傷がある一方、アイシングを施してもよい程度の軽微な筋損傷、というものが存在する可能性も否定できないとしている。その線引きが今後の課題だとし、研究グループは、軽微な筋損傷に対するアイシングがどのような影響を与えるのかを検討中だという。

今後、筋損傷の程度に合わせたアイシングの施し方などをさらに検討していき、スポーツ現場や臨床のリハビリテーションにおけるアイシングの是非について、正しい判断を行うための材料を提供していくとしている。

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