社会的注意の個人差、早産児の社会性・言語発達のリスクとどう関連?
京都大学は4月16日、修正齢6・12・18か月の早期産児と満期産児を対象に、社会性発達を評価する課題を縦断的に行い、発達予後を追跡調査した結果を発表した。この研究は、同大大学院教育学研究科の明和政子教授、武蔵野大学教育学部の今福理博准教授、京都大学大学院医学研究科の河井昌彦准教授(病院教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Infancy」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
近年報告された欧米の大規模長期コホート研究は、早期産(在胎週数22~37週未満)・低出生体重(出生体重2,500g未満)児(以下、早産児)は、就学前までに自閉スペクトラム症(以下、自閉症)などの発達障害と診断されるリスクが、満期産児(在胎週数37~42週未満)に比べて2~4倍高いことを示している。
研究グループは、早産児の社会性発達のリスクをより早期に評価する試みとして、人などの社会的に重要な刺激に対する注意(社会的注意)の個人差に着目した研究を行ってきた。修正齢6・12か月の時点では、一部の早産児の社会的注意が満期産児と比べて弱いことなどがわかってきた。
社会的注意の弱さは他者とコミュニケーションする機会の減少をもたらし、結果的に、社会性・言語発達のリスクにつながると考えられる。しかし、発達早期にみられる社会的注意の「個人差」が、早産児の社会性・言語発達のリスクとどのように関連するのか、また、それはどの程度早期からみられるかについてはわかっていなかった。
修正齢18か月、人に注意を向ける時間が少ない児ほど自閉症リスク陽性と判別されやすい
今回の研究は、在胎24~37週未満の早産児49人と満期産児29人を対象とした。まず、生後6・12・18か月の3時点(早産児・満期産児ともに修正齢)で、「人と幾何学図形の動きを左右に配置した動画」と「人が物体に視線を向ける動画」を見せ、その間の視線の動きを視線自動計測装置(アイトラッカー)により計測した。
人と幾何学図形の動きの映像については、「人の映像を見た時間の割合」を算出。「人が物体に視線を向ける映像」については、「視線を追う頻度」と「視線方向の物体を見た時間の割合」を算出した。さらに、生後18か月に達した時点で、乳幼児期自閉症チェックリスト(M-CHAT:Modified Checklist for Autism in Toddlers)を用いて社会性発達のリスクを評価し、また、言語発達の評価も行い、社会的注意の個人差との関連を調べた。
調査の結果、「修正齢6・12・18か月の時点では、早産児は満期産児に比べて人に注意を向ける時間が一貫して少なく、人の視線を追う頻度も少ないこと」「修正齢18か月の時点では、早産児は満期産児に比べて自閉症リスクが陽性と判別される割合が高く、理解・発話の語彙数も少ないこと」「修正齢18か月の時点では、人に注意を向ける時間が少ない児ほど、自閉症リスクが陽性と判別され、また、人の視線を追う頻度が低いほど発話できる語彙数が少ないこと」が明らかになった。
以上の結果は、周産期の環境経験の違いが、乳児期の社会的注意の発達に影響を与えること、そして、その個人差は社会性発達のリスク(自閉症、言語発達の遅れ)を予測する可能性を示しているという。
「社会的注意」を発達評価などの客観的指標として応用へ
早産児では、社会性や言語発達のリスクの高さが指摘されてきたが、それがどのくらい早期から特定されるのか、また、そうしたリスクに関連する要因についてはわかっていなかった。今回の研究は、早産児と満期産児の発達早期(乳児期)に着目し、それぞれの乳児が示す社会的注意の個人差が発達リスクを予測することを見出した。
人を見る時間が少ないほど早期自閉症スクリーニングで陽性と判別される割合が高い、人の視線を追う頻度が低いほど発話語彙数が少ないといった関係を実証的に明らかにしたのは、今回の研究が初めてだという。社会的注意は、早産児をはじめとするリスク児の発達評価や早期介入支援の効果を評価する客観的指標として、臨床現場での応用が期待される。
今後の課題は、同研究が見出した早産児の社会性発達リスクを予測しうるマーカーのメカニズムをより詳細に解明することにある。また、発達早期に特定されたリスクが、学齢期以降の自閉症の診断(罹患率)や社会性発達、実生活での対人関係の問題などと、どのように関連するかを長期的に追跡調査することも重要な課題となっている、と研究グループは述べている。
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