口腔健康状態の悪化は主観的認知機能低下の発生率を増加させるか
東北大学は4月16日、日本の65歳以上の高齢者1万3,594人を対象に、口腔状態の悪化が認知機能低下のリスクを増加させるのかについて検討する6年間の追跡調査を行い、口腔機能低下や歯の喪失がみられた高齢者で主観的認知機能低下のリスクが約3~9%高いことがわかったと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンター地域展開部門 兼 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野の相田潤教授、東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の木内桜氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、口腔の健康状態の低下と認知機能低下や認知症発症との関連が多くの研究から報告されている。しかし、口腔の健康状態の低下や認知機能の低下も長期の経過をたどることから、因果関係を明らかにする手法として代表的なランダム化比較試験は困難である。そこで、研究グループは、観察研究において未測定の時間不変の共変量(性格など)によるバイアスを取り除く方法である固定効果分析を使用し、口腔の健康状態の悪化が主観的な認知機能低下の発生確率を増加させるのかについて検討した。
日本在住の65歳以上1万3,594人を対象に、6年間追跡調査
日本老年学的評価研究(JAGES)のデータで、2010年のベースライン時点で主観的な認知機能低下がないと回答した65歳以上の地域在住高齢者1万3,594人を対象に6年間の追跡調査を行った。「周りの人からいつも同じ事を聞くなど物忘れがあるといわれますか」「自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか」「今日が何月何日か分からない時がありますか」といった質問に対し、認知機能低下を示す回答をした人を主観的な認知機能低下ありとした。
そして、嚥下機能低下として「お茶や汁物でむせることがありますか」、咀嚼機能低下として「半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか」、また、口腔乾燥感として「口の渇きが気になりますか」を質問し、歯の本数(20本以上/0~19本)との関連を調べた。年齢・婚姻歴、等価所得・教育歴、高血圧・糖尿病の有無、飲酒歴・喫煙歴・日々の歩行時間の影響を除外した解析を行った。
嚥下機能が低下した対象者は主観的認知機能低下の発生率が最も高かった
1万3,594人の主観的な認知機能低下のない対象者(女性55.8%)は、平均年齢が男性72.4(SD=5.1)歳、女性72.4(SD=4.9)歳であった。質問紙調査を用いた6年間の追跡調査の結果、調査に参加した男性の26.6%、女性の24.9%で主観的な認知機能低下がみられた。
嚥下機能、咀嚼機能、口腔乾燥感、歯の喪失があった人で、主観的な認知機能低下が見られた人は、それぞれ男性では、35.2%、34.9%、36.7%、29.0%、女性では31.5%、31.3%、31.5%、26.8%だった。それぞれの口腔状態の低下がみられた対象者は、そうでない対象者よりおよそ10%ポイントほど認知機能低下の発生が多かったが、この数字は年齢や既往歴などの差異を反映している可能性があった。
そこで関連する要因を考慮した解析を行ったところ、主観的認知機能低下のリスクが
・嚥下機能が低下した人は、そうでない人より、男性で8.8%ポイント、女性で7.7%ポイント高い
・咀嚼機能が低下した人は、そうでない人より、男性で3.9%ポイント、女性で3.0%ポイント高い
・口腔乾燥感が現れた人は、そうでない人より、男性で2.6%ポイント、女性で6.4%ポイント高い
・歯を喪失した人は、そうでない人より、男性で4.3%ポイント、女性で5.8%ポイント高い
ことがわかった。
今回の研究から、口腔の健康状態が低下した対象者は主観的な認知機能低下の発生確率が高く、口腔の健康状態のうち、嚥下機能が低下した対象者は主観的な認知機能低下の発生確率が最も高かったことが明らかになった。研究グループは、「主観的な認知機能低下は、将来の認知症発症リスクを高めるが、口腔の健康状態を維持することで主観的な認知機能低下を防ぐことができる可能性がある」と、述べている。
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