医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 副甲状腺ホルモンによる骨量増加のメカニズムを解明-阪大ほか

副甲状腺ホルモンによる骨量増加のメカニズムを解明-阪大ほか

読了時間:約 2分24秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年04月13日 AM11:15

PTHはどのように骨吸収と骨形成を同時に制御しているのか?

大阪大学は4月9日、副甲状腺ホルモン()による骨量増加のメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の森本彬人特任研究員(常勤)、菊田順一准教授、石井優教授(免疫細胞生物学・国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 招へいプロジェクトリーダー)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications誌」に掲載されている。


画像はリリースより

骨の構造と機能は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返し、自ら再構築することによって、その強靭さとしなやかさを維持している。骨吸収と骨形成のバランスが崩れると、骨粗しょう症や骨硬化症などの骨疾患が発症し、骨は脆弱になる。そのため、骨吸収と骨形成のバランスをいかに保つかということは、骨のメンテナンスを考える上で非常に重要だ。

PTHは、骨吸収から骨形成への移行(骨カップリング)を促進することで骨量を増やすことが知られており、骨粗しょう症治療薬の要として広く世界で使われている。研究グループは過去に、生体骨組織イメージング技術を独自に開発し、PTHの薬効評価を行っており、PTHを投与したマウスでは薬剤を投与してない群と比較して、骨芽細胞と破骨細胞の細胞間相互作用が増加し、骨吸収を抑制することがわかっている。しかし、PTHがどのように骨吸収と骨形成を同時に制御しているのか、その詳細な分子メカニズムは明らかになっていない。

SLPIが骨芽細胞による骨形成を促し、破骨細胞の骨吸収を抑制

研究グループは今回、骨芽細胞と破骨細胞の細胞間相互作用に関わる分子メカニズムを検討するため、PTHを連日投与したマウスから骨芽細胞を分離し、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析を実施。その結果、創傷治癒やタンパク分解酵素に関わる遺伝子の多くがPTHによって発現変動していることを見出し、その中でもセリンプロテアーゼ阻害作用をもつ低分子タンパク質「SLPI」の発現が最も顕著に増加していることが明らかになった。

次に、SLPIを欠損したマウスを用いて、SLPIがPTHの骨量増加作用に与える影響を解析したところ、SLPI欠損マウスでは野生型マウスと比較してPTHの骨量増加作用が有意に減少していた。SLPIが欠損したマウスではPTH投与下で、骨吸収が亢進し、骨形成が減弱していた。このことから、PTHが骨吸収と骨形成のバランスをとる中で、SLPIは骨吸収に傾きすぎないように骨代謝を調節していることが明らかになった。SLPIを過剰に発現させた骨芽細胞は盛んに細胞分裂を行うほか、Runx2やOsterixという骨芽細胞機能に必須のタンパク質の発現が高いことがわかった。さらに、SLPIを過剰に発現した骨芽細胞は、破骨細胞との細胞間接着能が高く、細胞間相互作用により骨吸収を抑制することが判明した。

最後に研究グループは、独自に開発した生体骨組織イメージング技術を用いて、SLPIを欠損したマウスでの破骨細胞と骨芽細胞の相互作用を解析した。その結果、PTH投与下において、SLPI欠損マウスでは野生型マウスと比較して、骨芽細胞と破骨細胞の細胞間相互作用の頻度が小さいことが判明した。以上の結果から、SLPIは骨芽細胞に直接的に作用して骨形成を促進しているほか、骨芽細胞と破骨細胞の細胞間相互作用を増加することで骨吸収と骨形成の両面を制御していることが明らかになった。

効果的な骨疾患治療薬の開発に期待

骨粗しょう症の治療では、骨吸収を抑える薬剤に比べて骨形成を促進させる薬剤は限られており、骨を再生させる治療薬の開発が望まれている。「本研究成果は、骨疾患治療薬であるPTH製剤の臨床的意義をさらに高めるとともに、骨粗しょう症など骨疾患の治療により効果的な骨疾患治療薬の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大