順天堂大学医学部附属順天堂医院の服部信孝氏(脳神経内科教授)は4月2日、パーキンソン病についての講演で、「腸内細菌が重要なカギを握っている」と指摘した。医療機器メーカーの日本メドトロニックが開催したプレスセミナーで発言した。
パーキンソン病は脳の神経伝達物質「ドパミン」が減少する進行性の神経変性疾患。原因は不明だが、神経細胞間の情報伝達を助ける脳内タンパクであるα-シヌクレインが異常に沈着し、パーキンソン病を引き起こすといわれている。主な症状は振戦や動作緩慢、筋強剛、歩行障害・姿勢反射障害。患者数は60~80代が全体の約9割を占めており、高齢化により患者数が増加している。
服部信孝氏(日本メドトロニック提供)
服部信孝氏はセミナーで、パーキンソン病を早期に診断するためのバイオマーカーの必要性を指摘。睡眠中に暴力を振るうなどの動作がみられるレム睡眠行動異常症を発症すると、3年後には25%が、5年後には約40%がパーキンソン病やパーキンソン病関連疾患になるとの研究結果1)2)を示し、レム睡眠行動異常症のメカニズムとして、かなり早期から神経炎症が起こっているとした。さらに、「パーキンソン病発症時にはドパミン神経細胞が約50~60%まで低下している3)」とし、「発症前に治療を開始することが大切だ」と強調。パーキンソン病の早期診断に向けた基準の確立を求めた。
服部氏はまた、胎児脳を移植した研究や動物実験から、腸管にα-シヌクレインが蓄積し、迷走神経を介して脳に上行していくことが示唆されていることを紹介。「腸内細菌が重要なカギを握っているという言い方もできる。パーキンソン病は脳の病気だが、全身疾患であるというとらえ方に徐々にシフトしてきている」と述べた。
症状の日内変動に応じて自動で刺激を調整するDBS機器も
パーキンソン病治療では基本的に、ドパミンの原料である「レボドパ」やドパミンの代わりをする「ドパミンアゴニスト」、そのほかの補助薬、非ドパミン系治療薬を組み合わせた薬物療法が行われる。しかし、病気が進行し薬物による症状のコントロールが難しくなった場合、脳深部刺激療法(DBS:Deep Brain Stimulation)が有効なケースもある。DBSは、手術治療法の1つで、脳に植え込んだ電極を通じて電気刺激を行うことでパーキンソン病の症状を抑えるというもの。
下泰司氏(日本メドトロニック提供)
セミナーで登壇した順天堂大学医学部附属練馬病院の下泰司氏(脳神経内科教授)は、DBSの適応について、①突発性のパーキンソン病であること(L-ドパに反応すること)、②ウェアリングオフ、またはジスキネジアが発現していること、③明らかなうつや認知症、精神症状がないこと―の3つを挙げた。進行期のパーキンソン病患者では薬効の持続時間が短縮し、薬が効くとジスキネジアに、切れるとオフ状態で動けなくなってしまうという。こうしたケースではDBSを行うことによって、症状がなだらかになり、薬の服用回数も減るとした。
下氏は、「最近では頭蓋内の神経細胞活動をモニターしながら電流を流す機器もある」と紹介。患者の症状の変化に応じて、刺激の強さを自動で調整することが可能だと説明した上で、「DBS治療では、患者一人ひとりの生理的状態や疾患の状態などを考慮したテーラーメイド医療が実現できている」との見方を示した。
1)Dennis W Dickson, et al.:Lancet Neurol. 2009;8(12):1150-1157.
2)Lorraine V Kalia, et al.:Lancet. 2015;386(9996):896-912.
3)Linda A Hershey, et al.:Neurology. 2013;81(12):1026-1027.