今後の対策のため、自治体の積極的疫学調査を分析し感染の特徴を見出す
国立感染症研究所(感染研)は4月9日、新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者における基本属性別、接触場所別の陽性率について、病原微生物検出情報(IASR)の速報として発表した。この報告は、富山県衛生研究所の田村恒介氏、谷英樹氏、大石和徳氏、感染研感染症疫学センターの宮原麗子氏、大谷可菜子氏、鈴木基氏によるもの。
全国自治体が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者発生に際して実施する積極的疫学調査においては、患者および濃厚接触者に対して詳細な聞き取り調査が行われる。今回、これまで収集された積極的疫学調査情報を集約し、感染者と濃厚接触者の基本情報や接触場所から感染リスクの高い人や感染場所の特徴、接触場所別の陽性率を明らかにし、今後の感染対策に生かすことを目的に、解析が実施された。
富山県A市で4か月間に感染報告のあった123人のデータを分析
分析対象は、2020年7月1日~10月31日までの期間に富山県A市でCOVID-19と報告された123人に対して実施された積極的疫学調査のデータ。当該期間中に感染研が公開している「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」の濃厚接触者の定義に基づき、感染可能期間とされるCOVID-19患者の発症2日前から隔離開始までの間に接触した濃厚接触者に対して新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査が実施された。
濃厚接触者の基本属性(年齢、性別、接触者との関係、症状の有無、検査結果、最終検査日、感染の有無、健康調査期間)や陽性者と接触した場所をもとに、濃厚接触者の基本属性別の陽性率と接触場所別の陽性率が算出された。また、SARS-CoV-2の感染者のうち、富山県衛生研究所で診断時PCR検査を実施した症例を対象に、二次感染の有無とRT-PCRのCt値との関連について検討がなされた。
濃厚接触者の4割は家族、PCR陽性率10%で70代が最多
接触者調査は感染者の発症後平均4.25日後まで実施されており、この行動歴の情報から99人の陽性者に対して合計530人の濃厚接触者がいることが判明した。濃厚接触者が同定されてから検査を受けるまでの平均日数は1.43日であり、濃厚接触者と特定された後2日以内に9割以上の濃厚接触者が検査を受けていた。また、検査陰性者のうち82%に対しては、検査後も2週間の健康観察が実施された。濃厚接触者の41%は感染者の同居または別居家族であり、家で接触した割合が最も高かった。
PCR検査の結果、56人が陽性〔陽性率10.6%、95%信頼区間(95%CI):8.1-13.5〕だった。陽性率が最も高い年代は70代で35%を超えており、陽性者数も14人と多かった。次いで、20代と30代、80代の陽性率が15%を超えていた。男性と女性の陽性率はそれぞれ10.0%と13.4%であり、有意な差はみられなかった。また、検査時点の発症の有無が明記されていた474人のうち94(19.8%)人に何らかの症状があり、そのうち38人が検査陽性(陽性率は40.4%)だった。有症状者の陽性率は無症状者の約10倍だった。
「接待を伴う飲食店やカラオケ関連」と「旅行や車内」で陽性率高
7~8月にかけて市内で発生した接待を伴う飲食店でのクラスター(6件)、カラオケ関連クラスター(2件)を中心に、スナック・バー、カラオケ関連での陽性率がそれぞれ28.6%、24.0%と高い傾向にあった。また、陽性者数自体は少ないが、旅行や車内での接触も陽性率が高い傾向にあった。特に旅行での接触では陽性率が75%と高く、一緒に行動した旅行者間で感染を広げるリスクが高かった。別居家族を含む家族内や同居者を含めた家族内での二次感染率は11.5%(95%CI:7.5-16.5)だった。
SARS-CoV-2の感染者123例のうち、80例において富山県衛生研究所でPCR検査が実施された。二次感染を認めた22例のCt値〔中央値(四分位範囲)〕は31.0(24.9-33.0)であり、二次感染を認めなかった58例〔28.3(24.1-32.4)〕と比較し、有意差は認められなかった。なお、二次感染の有無によって、発症から検査までの期間、性別、年代分布においても差は認められなかった。
検査基準によって陽性率変動の可能性を考慮し結果解釈を
今回の報告における考察は、以下の通り。
「全国的にCOVID-19の流行が拡大し始めた7月半ばからA市内でも感染者増加が増加し始めた。その中で接待を伴う飲食店やカラオケ関連のクラスターが発生し、特に接待を伴う飲食店の客やカラオケ利用者であった20~30代や70代の陽性者数増加と陽性率の高さに影響を与えたものと思われる。接待を伴う飲食店やカラオケ店以外に陽性率が高い接触場所は旅行や車内であった。また家族内の二次感染率が高いことはよく知られているが、今回のA市の調査では家族内感染(別居家族も含む)が11.5%であり、2020年2~5月の国内における家族内二次感染率(19.0%)よりも低い値であった。接触場所によっては濃厚接触者の特定が困難である場合や、濃厚接触でなくても幅広く検査が実施されている場合があり、検査実施基準によって陽性率が変動する可能性を考慮し結果を解釈する必要がある。
SARS-CoV-2のRT-PCR検査におけるCt値は鼻咽頭のウイルス量を反映する。このため、二次感染の有無でのCt値の違いを検討したが、二次感染とCt値に有意な関連性は認められなかった。二次感染の発生には、患者鼻咽頭のウイルス量のみならず、マスク着用等の感染対策の有無、濃厚接触者との接触時間や距離など他の多様な要因も関連する可能性が考えられた」
▼関連リンク
・国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)