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原発性胆汁性胆管炎、日本人ゲノム解析で新たな遺伝要因を同定-京大ほか

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2021年04月12日 PM12:00

微小な変異の集合体解析「」が医学分野で注目

京都大学は4月9日、(primary biliarycholangitis、PBC)の日本人遺伝子データベースと日本人の一般集団の全ゲノムデータベースとの比較を行った結果、日本人では今まで報告がない3か所の新規領域を含む、合計7か所の染色体上の疾患に関わる候補領域を、領域内遺伝率推定法(Regional Heritability Mapping法、RHM)によるゲノム解析から同定したと発表した。この研究は、同大学学際融合教育研究推進センター スーパーグローバルコース医学生命系ユニットの長﨑正朗特定教授、Gervais Olivier研究員(研究当時)、 ゲノム医科学プロジェクトの徳永勝士 戸山プロジェクト長、長崎大学大学院医歯薬総合研究科の中村稔教授(長崎医療センター客員研究員)らの研究グループによるもの、研究成果は、「European Journal of Human Genetics」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

世界初のゲノムワイド関連解析(GWAS)法が2002年に発表されて以来、数多くのGWAS研究が実施され、GWASのデータを集積したデータベースGWAS Catalogによると、GWAS の論文が4,000報以上発表されており、何百もの形質に対して延べ20万近くの関連遺伝子座が同定されている。また、2型糖尿病や高脂血症をはじめとし、GWASの結果を創薬に活用した成功例等が見られるようになってきており、疾患感受性遺伝子の同定が疾患病態の解明や創薬開発に役立つことが明らかになってきている。そのため、今後もGWASにより得られた成果を生かすことでさまざまな疾患の治療法の開発に役立てられていくと期待されている。しかし、通常GWASは、ゲノム全体をカバーする数十万~数百万個の代表的な変異であるSNP(一塩基多型)に関する情報を利用し、特定の疾患や形質などとの関連を調べる統計手法であり、変異ごとに検定を行う。つまり、各SNPに対する検定を個別に実施するため、各検定では対象となっている変異以外のマーカーの効果を基本的なモデルにおいて考慮していない。

一方、近年、大きな効果をもたらす個々の変異を探索することを研究対象としたGWASに比して、微小な働きを持つ多数の変異の集合体の効果を研究対象としたポリジェニックモデルが医学分野において注目を集めている。

PBC罹患群1,953人と一般集団3,690人をGWASとRHM法で比較解析

研究グループは、「日本人大規模全ゲノム情報を基盤とした多因子疾患関連遺伝子の同定を加速する情報解析技術の開発と応用」として、ヒトゲノム情報解析技術の開発を行い、その成果を、幅広く日本人を中心とした多因子疾患のゲノム情報について適用する研究を進めてきた。その研究開発の中で、GWAS法に対して、染色体上の単位領域に含まれる、微小な働きをもつ多数の変異の集合(ポリジェニック)としての効果を考慮する手法の1つであるRHM法に着目した。さらに、RHM法の適用例として、希少難治性疾患の1つであるPBCを対象として以下の解析を行った。

約66万SNPを搭載するSNPアレイのジャポニカアレイv1、約60万SNPを搭載するSNP アレイのAxiom Genome-Wide ASIアレイを用いて計測を行った日本人のPBC 罹患群(計 1,953人)と、日本人の一般集団の全ゲノムデータ(計3,690人)に対し、約2,000人の東北メディカル・メガバンク機構の全ゲノムリファレンスパネルを用いて未観測の領域の変異を推定。さらに、一定以上の相関を持つ変異のうちの代表的なSNPを抽出することで最終的に約100万か所の変異を抽出し、その変異群に対してGWAS法とRHM法それぞれを用いて解析を行った。

RHM法で新たに有意な3領域を検出、うち2領域は世界初の報告

その結果、GWAS法を用いることで検出することができた染色体上の領域に比べ、RHM法では新たにSTAT4、ULK4、KCNH5の3つの領域について、統計的に有意な水準を超える領域として検出することができた。

次に、得られた結果の信頼性を確認するため、日本人では今まで報告がない3か所の領域(STAT4、ULK4、KCNH5)の各領域に含まれる一番有意であった変異に対して、前述の集団とは独立したPBC罹患群(計220人)と一般集団(計271人)の変異の偏りについて検定を行ったところ、これらの変異についてすべて有意な差が得られた。

さらに、STAT4についてはヨーロッパでPBC疾患との関連性が過去に報告されていたが、残りの2つ(ULK4およびKCNH5)については日本人以外の集団おいてもPBC疾患との関連が報告されていない新規の遺伝子だった。これらの遺伝子は、従来の単一SNP GWASでは検出できなかったことから、新たなヒト疾患感受性遺伝子の検出にRHM法が有効であることが、ヒトゲノムの実際のデータを用いて示された。

ULK4遺伝子はPBC罹患群で発現上昇、RHM法の医学的実証は世界初

また、肝臓組織のmRNAマイクロアレイ解析により、PBC患者ではULK4の遺伝子発現レベルが高いことが明らかになり、ゲノム情報の解析によって得られた結果がPBC疾患に機能的に関連する可能性が高いことが示唆された。なお、シミュレーション研究では、複数の隣接する変異を統合することでゲノムの特定領域の遺伝的影響を推定するRHM法は、GWAS法よりも多くの場合高い検出力を持つことが予測されていた。しかし、これまでのところ、その利用は農業分野を中心に行われており、ヒト疾患における新規遺伝子発見のための全ゲノム領域への適用はなされていなかった。そのため、今回の報告は、RHM法をヒトゲノム解析に適用し、新規の疾患関連遺伝子を同定することに成功した世界初の成果となった。

幅広い疾患に対し新規遺伝要因の探索に適用可能

今回の研究では、RHM法を PBC疾患に適用することで新たな遺伝要因を探索することを実証したが、この手法は、いままで解析が行われていたGWAS Catalogに登録されている4,000報以上の多因子疾患ゲノム情報についても適用が可能。つまり、従来の単一SNP GWASなどの一般的なゲノム解析手法において見逃されていた遺伝的要因を同様に新たに同定していくことが可能となった。

一方、同手法の解析には、大規模な電算機資源が必要となるため、より計算量を削減した形での計算実装を行う改良を進めることや富岳などのより大規模な計算機に適した計算アルゴリズムと実装にするなどが考えられるという。なお、1つの変異の効果が強い場合などGWAS法でしか同一のサンプル数で有意水準に到達できない変異が存在することもあるため、研究グループは、「RHM法はGWASの代替というわけではなく、併用する手法が有効であると考えている」と、述べている。

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