移植後の社会復帰を妨げる因子を患者データから探索
京都大学は4月9日、同大医学部附属病院で実施された同種造血幹細胞移植後の患者データを用いて、移植後の社会復帰(復職および復学)の予測因子を発見したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の濱田涼太理学療法士、新井康之助教、医学研究科の近藤忠一講師、髙折晃史教授、松田秀一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
同種造血幹細胞移植は、急性白血病や悪性リンパ腫など難治性血液疾患の患者にとって治癒が望める治療法だ。移植技術そのものや支持療法が発展し、長期生存者が増えるにつれ、生活の質(QOL)を高めることが重要になってきている。特に、移植後の社会復帰(職場や学校への復帰)はQOLを高める大きな要因だが、容易に達成されるものではない。また、移植後早期の時点で、将来的な社会復帰を予測する方法は確立されておらず、リハビリテーションや長期フォローアップ外来の活用など、移植後の集学的治療戦略を患者ごとにどのように最適化して計画すべきかについても手探りの状態だ。
移植後2年時点でパフォーマンス・ステータス低下と、慢性移植片対宿主病の発症が影響
研究グループは、同病院血液内科で治療を受けた同種造血幹細胞移植後の患者56人のデータを用いて、移植後の社会復帰状況や復帰に影響を及ぼす因子について検討を行った。その結果、移植後2年時点で71%の患者が職場や学校に復帰することができ、移植後2年時点におけるパフォーマンス・ステータスの低下と、慢性移植片対宿主病の発症が社会復帰に影響を及ぼしていることが明らかになった。
また、社会復帰を妨げる移植後早期の因子を解析した結果、「女性患者」「造血細胞移植特異的併存疾患指数(HCT-CI)高値」、さらに「移植期間中の6分間歩行距離(運動耐容能の指標の低下率」がリスク因子になることが明らかになった。
新たなリハビリテーション戦略の開発に期待
今回の研究結果から、移植後早期の段階から社会復帰の可能性を予測でき、復帰を妨げる因子を有する患者においては、移植後のリハビリテーションを含めた集学的治療戦略の重要性が示唆された。また、社会復帰を目指した移植後早期のリハビリテーション戦略として、筋力を保つだけではなく、運動耐容能を低下させないことが重要であることや、移植患者に対するリハビリテーション介入の重要性が改めて示された。
「移植後早期の身体機能と社会復帰の関係性を示した初めての研究であり、今後は運動耐容能の低下に関連する因子の検討や、低下させないための新たなリハビリテーション戦略の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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