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遺伝的に肉離れしにくい女性アスリートは疲労骨折リスクが高い可能性-順大ほか

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2021年04月09日 AM11:15

アスリートの疲労骨折とI型コラーゲンα1鎖遺伝子多型の関連は?

順天堂大学は4月7日、2,000人以上のアスリートを対象とした調査・解析により、遺伝的に肉離れしにくい女性アスリートは疲労骨折のリスクが高いことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院スポーツ健康科学研究科の宮本恵里助教、福典之先任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Medicine & Science in Sports & Exercise誌」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

スポーツ外傷・障害の予防は、アスリートが充実した競技生活を送るために極めて重要な課題だ。特に、疲労骨折や肉離れはアスリートにおいて受傷率が高く、その要因として疲労骨折には骨密度が、肉離れには筋の硬さが関係している。なかでもI型コラーゲンは骨組織の主要な構成要素であると同時に、筋の硬さを決定する主要な要素。そのため、I型コラーゲンの量的・質的な差異が、骨密度や筋の硬さに影響を及ぼすことでアスリートの疲労骨折や筋傷害の受傷リスクに影響している可能性が考えられていた。

一方で、これまで詳細な解析は行われてこなかったことから、今回、研究グループは、I型コラーゲンα1鎖遺伝子の発現調節領域に存在する多型(rs1107946, A/C)と、骨密度や筋の硬さ、および、アスリートの疲労骨折や筋傷害受傷との関係を明らかにすることを目的に調査・解析を行った。

今回の研究対象は、1,667人の日本人アスリートおよび順天堂大学体格体力累加測定研究に参加した508人の順大生アスリート。疲労骨折および肉離れ等の筋傷害の受傷歴と、唾液から得られたDNAをもとに解析したI型コラーゲンα1鎖遺伝子多型(rs1107946, A/C)の関連を調査した。

CC・AC型は疲労骨折リスク「高」で筋傷害リスク「低」、AA型はその逆

調査の結果、CC型とAC型の女性アスリートでは、疲労骨折の受傷歴を有する人が多く(17.8%)、筋傷害の受傷歴を有する人は少なかった(9.9%)。反対にAA型の女性アスリートでは、疲労骨折の受傷歴を有する人が少なく(9.0%)、筋傷害の受傷歴を有する人は多い(18.6%)ことがわかった。

この結果は、疲労骨折に対してはCC型やAC型がリスクとなり、筋傷害に対してはAA型がリスクとなることを示している。次に、この遺伝子多型と骨や筋の組織特性との関連を検討した結果、CC型やAC型の女性は骨密度が低く、筋が軟らかいこと、一方でAA型の女性は骨密度が高く、筋が硬いことを認めた。なお、男性においては、I型コラーゲンα1鎖遺伝子多型と外傷・障害や組織特性との関連は認められなかった。

女性アスリートにおいて、CC型とAC型の人は、骨密度が低く筋が軟らかいことから、疲労骨折のリスクは高いが、筋傷害のリスクは低い。一方、AA型の人は骨密度が高く筋が硬いことから、疲労骨折のリスクは低いが、筋傷害のリスクは高い。骨密度や筋の硬さの差異にはI型コラーゲンα1鎖のホモトリマーの存在が関与していると考えられる。

個人の遺伝的体質に合わせた予防策を講じることで、より効率的・効果的にスポーツ外傷・障害を予防できる可能性があるとしている。

I型コラーゲン組成の違いがメカニズム関与している可能性

さらにメカニズムを検討するため、ヒトの骨格筋で詳細な分析を行った結果、CC型やAC型を有する人の骨格筋ではI型コラーゲンα1鎖の遺伝子発現レベルが高く、I型コラーゲン分子を構成するα1鎖とα2鎖の比(α1/α2)が高いことがわかった。

α1鎖とα2鎖の比が高いことは、通常2本のα1鎖と1本のα2鎖から成るヘテロトリマーとして存在するI型コラーゲンが、3本のα1鎖から成るホモトリマーの形で組織中に存在することを示唆している。

以上の結果から、I型コラーゲンα1鎖遺伝子多型のCC型やAC型を有すると、I型コラーゲンの組成の違いにより、骨密度が低く筋が軟らかいこと、その結果、女性アスリートにおける筋傷害のリスクは低い一方で、疲労骨折のリスクは高いことが明らかとなった。

個人の遺伝的体質と競技特性を総合的に考慮したスポーツ外傷・障害予防法構築を目指す

近年、スポーツ外傷・障害の受傷リスクと関連する遺伝子多型が同定されつつあるが、その遺伝子多型による受傷メカニズムについてはほとんど検討されていないのが現状だ。今回の研究では、遺伝要因が骨密度や筋の硬さといった組織の特性を介してスポーツ外傷・障害の受傷リスクに影響することを明らかにした。このことにより、組織の特性をターゲットとした新たな予防法の開発につながる可能性がある。

また、個人の遺伝的体質によるスポーツ外傷・障害受傷リスクの高低を組織別に事前に把握することができれば、アスリートはより効率的に予防策を講じることが可能となる。今後さらに他の遺伝要因も明らかにすることにより、個人の遺伝的体質と競技特性を総合的に考慮したスポーツ外傷・障害予防法の構築を目指す、と研究グループは述べている。

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