義歯治療完了した高齢者の口腔機能改善に有用か?
東京医科歯科大学は4月5日、簡易に作成できるマウスピースを用いた噛みしめ訓練が、義歯を使用している高齢者に対して咬合力と咬筋量、咀嚼筋性質の改善に有効なことを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、山口浩平特任助教、高野悟大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
口腔機能低下は、サルコペニアや死亡などの危険因子だ。口腔機能の中でも、特に咬合力や咀嚼能力は食事の選択に大きく影響する。咬合力が低下した者は、肉や葉物が噛み切りづらく、タンパク質、繊維、ミネラル、ビタミンなどの欠乏を招き、低栄養となる。高齢者の健康で自立した生活を維持するためには、口腔機能を維持することが重要だ。加齢や歯の喪失は、咬合力や咀嚼能力低下の主要因の一つ。それらに加えて、咀嚼筋、特に咬筋性質(量や質など)も咬合力や咀嚼能力に関連することがわかってきている。
近年、筋性質の観察に超音波診断装置が用いられており、量、質いずれも簡単に評価が可能。インプラントや義歯などの歯科補綴治療が口腔機能や咀嚼筋性質の改善に有用なことは、すでに明らかになっている。歯科補綴治療終了後に重要なことは、口腔機能や咀嚼筋性質を維持することだ。マウスピースを使用した噛みしめ訓練は、歯が全て揃っている若者の口腔機能改善に効果があることはすでに報告されていたが、歯を失った高齢者の効果は明らかになっていなかった。
今回の研究は、マウスピースを用いた噛みしめ訓練が義歯治療を完了したメインテナンス段階の高齢者の口腔機能改善に有用であるか検証することを目的とした。
咬合力、安静時咬筋厚、機能時咬筋厚、咬筋輝度で有意な改善
今回の研究の対象者は、65歳以上の高齢者53人。基本的に上下左右の臼歯部どこかに欠損を有し、義歯を使用しており、歯の欠損分類であるEichner分類のB群に当てはまる。対象者の義歯には痛みなどもなく、十分に機能しており、歯科治療としてはすでにメインテナンスの段階にあったとしている。
本研究は、無作為化比較試験。53人の対象者をランダムに介入群と対象者群に分けて、それぞれ介入し、1か月後に介入効果の検証を行った。介入効果は、最大咬合力、咀嚼能力、安静時・機能時咬筋量、質。最大咬合力計測は、専用の感圧フィルムを用い、咀嚼能力検査はグルコース含有グミを用いた。
咬筋量、質の評価は超音波診断装置を用いて、咬筋量として厚み、咬筋質として筋輝度を評価。筋輝度は、筋内の脂肪や繊維組織といった非収縮性組織を示しており、手足の筋肉ではすでに多くの研究報告がされている。
まず、介入群、対照群いずれもマウスピースを作成し、トレーニングはマウスピースを装着した状態で実施された。介入群は10秒間の最大限の食いしばり、対照者群は10秒間任意の速度でカチカチと軽く噛む動作(タッピング)を行った。いずれも5回を1セットとして、施行間は5秒のインターバルを設けた。1日2セットを1か月間継続してもらい、介入効果を確認した。
統計的解析の結果、介入群で咬合力、安静時咬筋厚、機能時咬筋厚、咬筋輝度に有意な改善を認めた。以上より、マウスピースを用いた簡易な噛みしめ訓練が、義歯を利用している高齢者の咬合力、咬筋性質改善に有用であることが証明されたとしている。
咬筋は、トレーニング感受性か比較的高い
同研究により、マウスピースを用いた簡易な噛みしめ訓練が義歯を使用している高齢者に対して、咬合力や咬筋性質の改善に有効であることが示された。
咬筋肥大は1か月という短期間で認められ、咬筋は比較的トレーニングの感受性が高い筋肉であることも示唆された。義歯などの歯科補綴治療が完了し、メインテナンス段階に入った者に対する口腔機能、口腔周囲筋セルフマネジメントの確立が期待される、と研究グループは述べている。
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