オシメルチニブ耐性の新型変異体に有効な医薬品は上市されていない
岩手医科大学は4月5日、新しい構造を有する抗がん剤シードを世界で初めて開発したと発表した。この研究は、岩手医科大学、長崎大学、がん研究会の共同研究として行われたもの。研究成果は、「Cancer Science」に掲載されている。
画像はリリースより
日本人の死亡原因の最多を占めるがんでは、肺がんの死亡者数が最も多く、毎年12万人以上が新たに肺がんと診断されている。近年の肺がんの薬物療法では、遺伝子検査に基づく個別化医療が標準的だ。上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子に変異のあるタイプの非小細胞肺がんでは、変異型EGFR阻害薬であるゲフィチニブ(商品名:イレッサ)やエルロチニブ(商品名:タルセバ)が一次治療薬として用いられ、がんの大幅な退縮がみられるなどの治療効果が見られる。
一方で、治療開始後1年程度で薬剤の効果が見られなくなる耐性化が臨床上の問題となっている。ゲフィチニブ耐性を克服する目的で開発された第3世代EGFR阻害薬オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)にも耐性を示す新たな変異EGFR C797Sも報告されている。現在のところ、この新型変異体EGFR C797Sに有効な医薬品は上市されていない。
海洋生物由来化合物の誘導体、微量でEGFR変異体を阻害
今回、共同研究グループ開発した「ラメラリン14」は、オシメルチニブ耐性変異型EGFR C797Sにも有効性を示す新たな抗がん剤シード。ラメラリンは、海洋生物ベッコウタマガイの一種から単離された天然物化合物だ。このラメラリンを化学的に変換して新たに合成した誘導体は、10nM以下というごく微量で、耐性変異を含む複数のEGFR変異体を阻害し、ヒト肺がん細胞に対する抗腫瘍効果を示す。ラメラリンは、既存のEGFRとは全く異なる構造を有するために、他のEGFR阻害薬に対する耐性化変異の影響を受けにくいと考えられている。
なお、今回の研究成果は、科学技術振興機構(JST)の支援を受けて、PCT 国際出願(PCT:Patent Cooperation Treaty)を果たし、現在、米国、欧州等への移行手続きが終了、日本においても審査請求の段階にある。
▼関連リンク
・岩手医科大学 最新ニュース