VEXAS症候群で見られるUBA1変異が再発性多発軟骨炎で認められるか検証
横浜市立大学は4月2日、再発性多発軟骨炎の男性症例の末梢血白血球で「UBA1」という遺伝子に病的な体細胞遺伝子変異を認めることを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科幹細胞免疫制御内科学の桐野洋平講師、同大附属病院難病ゲノム診断科の土田奈緒美助教、同大大学院医学研究科幹細胞免疫制御内科学の國下洋輔研究員、同大大学院医学研究科遺伝学の松本直通教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に掲載されている。
画像はリリースより
再発性多発軟骨炎は、軟骨に炎症が繰り返し起きる全身性の炎症性疾患で、原因は不明。症状が起きる軟骨としては耳介軟骨が多く、その他にも、気道・鼻・関節等の軟骨に炎症が起きることがある。炎症が継続する場合には、軟骨は変形・消失する。気道軟骨炎は気道狭窄や閉塞をきたす可能性があり、頻度は低いものの心血管病変や中枢神経病変を伴うこともある。日本では厚生労働省により難病の1つに指定されており、約500例の患者が登録されている。
最近、米国国立衛生研究所のグループが、成人後期に治療抵抗性の炎症症候群を発症した男性患者のみの25例で、タンパク質のユビキチン化に関わる「UBA1」という遺伝子に体細胞遺伝子変異が起きていることを報告し、「VEXAS症候群」と命名した。このVEXAS症候群の患者では、発熱・血球減少・骨髄異形成・皮疹・軟骨炎・血管炎などを認め、60%の患者は再発性多発軟骨炎の診断基準を満たしていたが、逆に再発性多発軟骨炎の患者にVEXAS症候群で見られるUBA1遺伝子の体細胞遺伝子変異を認めるかどうかは、これまで知られていなかった。
男性症例の73%で末梢血白血球か骨髄組織にUBA1変異を検出
今回、研究グループは、再発性多発軟骨炎の診断基準を満たす13例の患者(男性11例、女性2例)の末梢血もしくは骨髄組織由来のゲノムDNAを用いて、サンガーシーケンスでUBA1遺伝子の既知の変異の有無を検索。その結果、11例中8例の男性患者(男性例の73%)で変異(c.121A>C:p.Met41Leu, c.121A>G:p.Met41Val, c.122T>C:p.Met41Thrのいずれかの変異)を認めた。変異を認める症例では、皮疹・発熱・骨髄異形成症候群・血管炎などVEXAS症候群に合致する全身症状を認め、そのうち骨髄穿刺を行った症例では、VEXAS症候群に観察される骨髄系と赤芽球系の前駆細胞で空胞像を認めた。また、変異を検出しなかった患者(5例)に比べて、皮疹や骨髄異形成症候群の合併が多い傾向があった。
高感度解析で女性患者1例の血液から低頻度のUBA1変異を検出
サンガーシーケンスによる遺伝子変異検索では、15~20%よりも低頻度の変異を見逃してしまう可能性がある。そこで、ddPCRとPNA-clamping PCRの2種類の解析方法を用いて、低頻度変異を検索。その結果、ddPCRでは、サンガーシーケンスで変異を認めなかった女性例1例から変異含有率0.14%の低頻度変異が検出された。同症例は、PNR-clamping PCRでも変異の存在を示唆するPCR産物の増幅が認められた。女性例における低頻度変異の病原性については今後のさらなる検討が必要だが、今までのUBA1遺伝子変異は男性VEXAS症候群症例のみの報告であり、女性例でのUBA1体細胞遺伝子変異の検出は今回が初であったという。「UBA1遺伝子の体細胞遺伝子変異検査は、再発性多発軟骨炎の診断・治療法の選択・治療薬の開発などに役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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