Tsukushi遺伝子、細胞外領域の情報制御シグナル仲介分子をコード
九州大学は4月1日、Tsukushi遺伝子が、水頭症の発症に関与していることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大基幹教育院の太田訓正教授(研究当時:熊本大学大学院生命科学研究部)の研究グループによるもの。研究成果は、「Science Translational Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
脳の中では脳脊髄液が循環して、脳を外部の衝撃から守ったり、脳圧をコントロールしたりしている。脳脊髄液は脳室で作られ、脳内を循環して吸収される。水頭症は、脳室が拡大して、脳室内での脳脊髄液が停滞し、頭蓋骨内の圧力が高まることにより発症する難病指定の特定疾患。特に、特発性正常圧水頭症は、歩行障害・精神疾患・尿失禁などの症状を呈し、高齢化社会を迎える日本における患者数増加が懸念されている。しかし、その発症要因が不明であることから、同疾患の新規予防・治療薬の開発は喫緊の社会的課題となっている。
Tsukushi遺伝子がコードするタンパク質は、分泌型タンパク質で、細胞外領域において情報を制御するシグナル仲介分子として機能する。熊本大学をはじめとする国内外の12大学、5研究所との共同研究により単離され、ニワトリ初期胚における発現パターンが、土筆に似ていることからTsukushi遺伝子と命名された。
Tsukushi変異/欠損マウスで脳室拡大、原因不明水頭症患者でも変異を確認
今回、研究グループは、Tsukushi遺伝子改変マウスを用いて、水頭症との関連を解析した。まず、Tsukushi遺伝子欠損マウスは、野生型マウスと比べ脳の大きさがひと回り小さく、生後直後から水頭症患者の症状と類似した脳室拡大が観察された。また、生後直後のTsukushi遺伝子欠損マウスの脳室にTsukushiタンパク質を投与したところ、脳室の拡大が抑制された。さらに、Tsukushi遺伝子欠損マウスの行動解析を行ったところ、歩行困難を伴い、不安様行動を示した。
そこで、原因不明の水頭症患者のTsukushi遺伝子配列を調べたところ、3か所のアミノ酸置換変異が観察された。この変異型Tsukushiタンパク質は、受容体であるFrizzled3に結合出来ないものだった。
最後に、人工的に変異型Tsukushiタンパク質を発現するトランスジェニックマウスを作製。同マウスでは、脳室拡大が観察された。
水頭症の新規治療法開発などに期待
今回、研究グループは、Tsukushi遺伝子が、水頭症の発症に関与していることを世界で初めて明らかにし、水頭症発症のメカニズムの解明につながる重要な研究結果を得た。「今後、Tsukushiを用いた水頭症診断と新たな治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果