抗てんかん薬による神経活動抑制でαシヌクレインの伝播抑制は可能か?
京都大学は4月5日、αシヌクレインフィブリルを投与した培養細胞とマウスを用いた実験により、抗てんかん薬の一種「ペランパネル」が、αシヌクレインの伝播を抑制することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科臨床神経学の上田潤博士課程学生、上村紀仁特定助教、山門穂高特定准教授、高橋良輔教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Movement Disorders」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
パーキンソン病(PD)は、動作が緩慢になる等の運動機能障害を主徴とする進行性の神経変性疾患。日本で20万人近くが罹患しており、高齢化に伴い今後さらに患者数が増加することが予想されている。しかし、運動機能障害に対する対症療法は存在するが、病状は徐々に進行して症状が悪化していくため、病状の進行を抑えることができる根本的な治療法(いわゆる疾患修飾療法)の開発が急務となっている。
PDの原因は、αシヌクレイン(αS)の神経細胞内の異常な蓄積と、凝集体形成と考えられている。αSはPDの病理学的な特徴である凝集体「レヴィ小体」を構成する最も重要な成分。さらに、PDの病態進行の背景には、αS凝集体の神経細胞間での伝播が深く関わっていると考えられている。すなわち、このαS凝集体の伝播を抑制できれば、病態進行を遅らせることができると考えられている。
近年、αSの生理的な動態に神経活動が影響を与えることが明らかになった。そこで、研究グループは今回、抗てんかん薬ペランパネルによって神経活動を抑制すると、PDモデルにおけるαSの伝播が抑制できるのではないかと考え、研究を進めた。
マウスモデルにペランパネル投与でαS凝集体形成を抑制
今回の研究では、まず、人工的に作成したαSフィブリルを培養神経細胞に投与することで、その細胞内への取り込みとαS凝集体の形成を誘導した。αSフィブリルは神経細胞内に取り込まれると細胞内の正常なαSを異常な構造へ変化させ、異常なαSが凝集してαS凝集体を形成する。
この細胞モデルに対して、ペランパネルを投与すると、細胞内への取り込み機序の一つであるマクロピノサイトーシスが抑制され、同時にαSフィブリルの取り込みも抑制され、引き続いて起きる細胞内αS凝集体形成も抑制されることを発見した。
また、マウス脳内にαSフィブリルを接種することでαS凝集体の形成を誘導できる。同マウスモデルに対しても、ペランパネルの投与によりαS凝集体の形成が抑制できることを発見した。
αSフィブリルを接種した後からペランパネルを投与したマウスと比べて、αSフィブリルを接種する前からペランパネルを投与したマウスでは、αS凝集体の形成がさらに減少していた。これらの結果より、PDの進展を抑える上で初期から治療を開始することの重要性が示唆されたとしている。
今後、さらなる動物実験や臨床試験での有効性確認へ
今回の研究結果から、ペランパネルによってαSフィブリルのような病原性タンパク質の伝播を抑制することにより、PDの進行抑制効果が期待できるという。また、ペランパネルはすでに臨床で使用されている薬剤であるため、PDの疾患修飾療法への迅速な応用が期待される。
ただし、PDに対するペランパネルの臨床応用に至るまでには、さらなる動物実験でペランパネルのPDモデルの表現型への効果を明らかにすることや、臨床試験で実際の患者への有効性を確認することなど、今後乗り越えるべき課題が残っている、と研究グループは述べている。
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