VOCは2回連続PCR陰性が条件のため、発症から10日を超えて病床圧迫の一因に
国立感染症研究所は4月2日、新型コロナウイルスVOC-202012/01感染者の陰性確認完了までに要した日数とCt値の推移に関する考察について、病原微生物検出情報(IASR)の速報として発表した。この報告は、神戸市環境保健研究所感染症部の野本竜平氏、中西典子氏、森愛氏、岩本朋忠氏、同研究所COVID-19検査チーム、神戸市健康局保健所予防衛生課の小寺有美香氏、尾崎明美氏によるもの。
画像はIASR速報より
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者の退院基準については、令和2(2020)年5月29日付事務連絡「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取扱いについて(一部改正)」が通達されるまでは、症状消失後2回連続の核酸増幅法による陰性の確認が必要だったが、同事務連絡以後は発症日からの日数経過による退院および療養解除が認められている。
一方で、英国や南アフリカ、ブラジル等で流行している、Spikeタンパク質のN501Y変異を持つ、「懸念される変異株(variants of concern:VOC)」については、令和2年12月25日付事務連絡「英国及び南アフリカ共和国に滞在歴がある入国者の方々の健康フォローアップ及びSARS-CoV-2 陽性と判定された方の情報及び検体送付の徹底について(一部改正)」において通常とは異なる退院基準が設定され、2回連続の核酸増幅法による陰性確認が必要となった。この陰性確認の要件を満たすためには、現在の通常のCOVID-19患者の療養解除基準である「発症日から10日」という日数を超えるケースが多く、入院病床の圧迫の一因となっている。
神戸市の英国変異株感染者90人で陰性確認完了までの日数とCt値推移を解析
今回の速報は、神戸市においてPCR検査により2回の陰性が確認された90名のVOC-202012/01(英国型変異株)感染患者について、発症日から陰性確認完了に要した日数とCt(Threshold Cycle)値の推移についての解析報告。すべての検査は唾液検体からRNAを抽出し、病原体検出マニュアルに収載されているN2領域をターゲットとしたリアルタイムPCR法で実施された。使用機器はABI StepOnePlus(TM)、Ct値はThresholdを0.2に設定して算出された。
有症者は半数以上が陰性確認完了まで15日以上、無症状でも1か月以上要したケースも
対象とした90名のうち有症者は74名、無症状感染者が16名だった。無症状感染者は検体採取日を発症日として計算した。発症日から陰性確認完了に要した日数の平均は有症者で17.4日、無症状感染者で14.3日であったが有意差は確認されなかった。無症状感染者の多くは15日以内に陰性確認が完了したが、36日または27日を要した感染者も存在し、それぞれ8回と11回のPCR検査が実施された。有症者では50%を超える患者が陰性確認完了までに15日以上の日数を要した。
感染リスク低いCt>30でも陽性になり病床占有が問題、退院基準の再検討が必要
Ct値については、陰性確認検査において1度も陽性とならなかった感染者が45名いたため、残りの45名(95検体)について解析。経過日数とCt値の分布を解析した結果、Ct値の平均は35.0であり、発症日から10日未満の検体においても8割以上がCt>30を示していた。COVID-19のPCR検査におけるCt値と感染リスクの相関については複数の報告があり、Ct値が30を超える患者では感染リスクが低いとされている。陰性確認検査においては、Ct値が35付近になってからも複数回陽性となる感染者もおり、症状が改善し感染リスクも低いと考えられる患者が長期間病床を占有してしまうという大きな問題を抱えている。「現在の国内におけるVOCの感染者数増加を受けて、退院基準の再検討が必要であると考えられる」として、同報告は締めくくられている。
▼関連リンク
・国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)