ストレスに対峙した際に生じる自律神経性の血液調節の脳内機構を明らかに
筑波大学は3月30日、ラットの血液循環調節機構を解析し、ストレス時に血液循環を調節する神経機構を発見したと発表した。この研究は、同大医学医療系の小金澤禎史助教と松本正幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Neuroscience」に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトがストレスに対峙した時には、その状況に適応するための行動変化(すくみ、闘争、逃避など)が生じる。それと同時に、生体内では行動以外のさまざまな変化も引き起こされる。例えば、血液循環や呼吸活動など生体の恒常性を維持する上で重要なシステムが変化し、生体内の環境をストレスに最適化しようとするなど、ストレスに対するこのような生体内の反応は、主に脳によって制御されている。
血液循環は、自律神経系による心臓や血管の機能調節で、その恒常性が維持されている。ストレス環境下では、この自律神経系の活動が変化し、心臓や血管の機能が調節されることにより、ストレス環境に対応した血液循環へと変化する。しかし、自律神経系による血液循環調節は生命を維持するのに極めて重要であるために、その調節システムの異常は自律神経失調症などの病態へとつながることがある。そのため、ストレス環境下における自律神経性の循環調節機構を理解することは、脳による血液循環の調節異常が引き起こす病気の原因解明にも重要な課題で、世界中で多くの研究者が研究に取り組んでいる。そこで研究グループは今回、ストレスに対峙した際に生じる自律神経性の血液調節の脳内機構を明らかにすることを目的として、研究を行った。
5-HT1A/5-HT2受容体を介した神経伝達を薬物で抑制すると、外側手綱核の興奮による血圧と心拍数の変化が大きい
麻酔を導入したラットを用いて外側手綱核を電気的に興奮させたところ、血圧の上昇と心拍数の低下が観察された。この外側手綱核の興奮による血圧と心拍数の変化は、交感神経および副交感神経の心臓に対する影響を薬物によって抑えることで弱くなった。このことから、外側手綱核の興奮は、自律神経系を介して、血圧や心拍数の変化を引き起こしていることがわかった。
さらに、神経伝達物質であるセロトニンの受容体の働きを薬物により抑えると、外側手綱核の興奮による血圧と心拍数の変化が抑えられた。セロトニン受容体は7種類のサブファミリー(5-HT1~5-HT7)からなり、さらに14のサブタイプが存在することが知られている。その中でも、5-HT1A受容体と5-HT2受容体を介した神経伝達を薬物により抑えた場合、外側手綱核の興奮による血圧と心拍数の変化が通常より大きくなったり、小さくなったりした。このことは、ストレス環境下において、外側手綱核が興奮すると、自律神経系を介して血液循環が調節されるとともに、この反応を脳内のセロトニン系が仲介していることを示唆しているという。
ストレス環境下やうつ病にみられる自律神経失調症の新規予防法や治療法開発につながる可能性
研究グループは、ストレス環境下における外側手綱核の興奮が自律神経系を介して血液循環を調節する神経機構を、さらに明らかにすべく研究を進めている。
「今後は、外側手綱核と循環調節中枢の間の神経回路に着目し、セロトニン系を介した血液循環の神経回路を詳細に解析し、ストレス時における自律神経性の血液循環調節の神経機能を明らかにしていく。これらの研究を通してその神経機構を明らかにすることは、脳によるストレス時の生命維持システムの調節機構を明らかにするとともに、ストレス環境下やうつ病の際にみられる自律神経失調症の新たな予防法や治療法の開発につながると考えている」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL