妊娠糖尿病でのエストロゲンのTリンパ球を介した機能を探究
富山大学は3月31日、女性ホルモンのエストロゲンが妊娠中にTリンパ球の免疫機能を調節することで、インスリン分泌を支持して妊娠糖尿病から防御することを発見したと発表した。この研究は、同大学術研究部薬学・和漢系の笹岡利安教授、和田努講師、医学系の田中智子診療助手らの研究グループによるもの。研究成果は、科学専門誌「Diabetologia」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
妊娠中、母体では血糖や栄養素を細胞に取り込ませるインスリンの作用が低下し、母体から胎児への潤滑な栄養素の分配が行われる。一方で、母体の膵臓ではインスリンを産生するランゲルハンス島が肥大化し、インスリン分泌能が高まる。しかし、インスリン作用とインスリン分泌のバランスが崩れると糖代謝が悪化し、妊娠糖尿病を発症する。
エストロゲンは糖脂質代謝の調節に重要な機能を示す。実際に、女性はエストロゲンが減少する閉経期以降、体重の増加や糖脂質代謝異常を示す人の割合が増加する。しかし妊娠中に胎盤から産生される高濃度のエストロゲンは、他の胎盤ホルモンとともにインスリンの作用低下を誘導する。
また、妊娠糖尿病ではTh17やTregなどによるTリンパ球の異常が報告されている。エストロゲンはTリンパ球やマクロファージなどの免疫細胞の正常な発達や機能に影響することが知られているが、エストロゲンがTリンパ球を介して糖代謝に影響するかについてはこれまで未知だった。
研究グループでは、女性ホルモンによる糖代謝調節機構を長年研究してきた。そこで今回、Tリンパ球だけでエストロゲン受容体を欠損するマウスを解析し、妊娠糖尿病でのエストロゲンのTリンパ球を介した機能を探究した。
エストロゲン欠損マウス、インスリン分泌低下で糖代謝悪化
Tリンパ球だけでエストロゲン受容体を欠損するマウスを妊娠させた、妊娠糖尿病モデルマウスは、妊娠糖尿病患者と類似する表現型を呈した。この結果から、エストロゲンはTリンパ球に作用し、さまざまな代謝組織で免疫学的に環境を調整することで、糖代謝の維持に寄与すると考えられた。
特に、通常妊娠中は膵臓でのインスリン分泌が高まるが、同マウスでは逆にインスリン分泌が低下し、糖代謝は悪化した。また、妊娠糖尿病で増加するTh17が産生するIL17が、膵臓でのインスリン分泌を直接抑制することも明らかになった。
さらに、同マウスの内臓脂肪ではTh17の増加に伴い慢性炎症の増悪を、肝臓では妊娠糖尿病患者で報告されているヘパトカインの異常を認めた。母子免疫系を調節するTregの減少は習慣性流産の一因とされているが、同マウスでは、Tregが全身では変化せず子宮で減少したが、流産率や妊娠率には影響しなかった。
これらのことから、エストロゲンはTregの分化を直接誘導するものの、その分化には必須ではなく、Tリンパ球へのエストロゲン作用は妊娠の継続には直接関連しないことが明らかとなった。
IL17、インスリン分泌低下を伴う妊娠糖尿病の新規治療標的か
同研究により、エストロゲンのTリンパ球を介した新たな糖代謝制御機能が示された。妊娠糖尿病で増加するTh17およびIL17は膵臓のインスリン分泌を抑制することから、IL17はインスリン分泌低下を伴う妊娠糖尿病に対する新たな治療標的と考えられる。
「エストロゲンのTリンパ球を介した代謝維持機構」の解明が進んだことに基づき、研究グループは今後、その機序をさらに解明すると共に、臨床応用としてIL17を標的とした妊娠糖尿病、および肥満2型糖尿病での早期診断と治療法の開発を追究していきたいとしている。
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