若い/年老いたマウス血液中に存在する細胞外マイクロRNAを調査
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は3月29日、血液とともに循環する細胞外RNAの中から、筋肉の再生を促進し、または老化による筋肉の萎縮を抑制する細胞外マイクロRNA199-3p(miR-199-3p)を発見したと発表した。この研究は、同研究センター神経研究所神経薬理研究部の北條浩彦室長の研究グループによるもの。研究成果は、英国オンライン科学雑誌「Communications Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
若いネズミと年老いたネズミの血管を外科的手術で結合して、同じ血液循環系にするパラバイオーシスという実験がある。この実験では、若いネズミは老化が進み、年老いたネズミは若返るという結果になった。そして、体を巡る血液の中に老化促進やアンチエイジング効果をもった因子が存在することを示唆した。
研究グループは、機能性RNAであるマイクロRNAについて長年研究を行ってきた。マイクロRNAは小さなRNAでさまざまな遺伝子の発現制御に関わっている。このマイクロRNAは細胞の中だけに存在するのではなく、細胞の外、例えば血液の中にも存在することがわかっている。そして、そのような細胞外のマイクロRNAと病気との関連も明らかになってきた。
以上のような背景と現状、そしてパラバイオーシスの実験結果から、研究グループは若いマウスと年老いたマウスの血液の中に存在する細胞外マイクロRNAについて調べる研究を開始した。
miR199-3pがLin28bとSuz12発現抑制で筋分化抑制機能解除、筋分化進行へ
体を巡る血液の中には、多くの種類の細胞外マイクロRNAが存在している。研究グループは、若いマウスと年老いたマウスの血液中の細胞外マイクロRNAを解析。その結果、若いマウスの血液に多く存在し年老いたマウスの血液では減少する細胞外マイクロRNAの中から、強い筋分化誘導能を持ったmiR-199-3pを発見した。
研究グループは、miR199-3pについてさらに詳しく解析。そのマイクロRNAが作用する標的遺伝子として、Lin28b遺伝子とSuz12遺伝子を同定した。そして、miR199-3pがLin28bとSuz12の発現を抑制することで、Lin28bとSuz12が持つ筋分化抑制機能が解除され、その結果、筋分化が進むことがわかった。
miR199#4合成核酸投与で、老齢マウス筋線維が肥大化
次に、そのマイクロRNAを人為的に供給できる模擬体、miR199#4合成核酸を設計し、マウスの筋損傷部や萎縮した老齢マウスの筋肉に投与した。その結果、投与した筋線維の断面積が大きくなることがわかった。
この老齢マウスの筋線維の肥大化は、上記再生筋線維の組織像とは異なることから、新たな筋線維が生まれたというよりは、すでに萎縮した筋線維がmiR199-3pによって肥大化したものであることが示唆された。そこで、研究グループは、老齢筋線維の肥大化の背景にある分子メカニズムについて調査。そして、萎縮した筋線維で働く重要な遺伝子、Atrogin1とMuRF1遺伝子の発現がmiR199#4の投与(すなわち、miR199-3pの供給)によって強く抑制されることが明らかになった。したがって、老齢マウスの筋線維ではmiR199-3pの供給によって筋萎縮系遺伝子が抑制され、その結果、肥大化が起こったということがわかった。
筋ジストロフィーマウスにmiR199#4投与で、筋力改善
最後に、研究グループは疾患モデル動物による実験を実施。筋ジストロフィーのモデル動物、mdxマウスにmiR199#4を2回全身投与し、その後グリップテストを行って筋力の改善の有無を調べた。その結果、miR199#4を投与したmdxマウスは、コントロールRNA(nsCont)を投与したmdxマウスと比べて、有意な筋力の改善が認められた。
そして、筋ジストロフィーの血中で上昇するクレアチンキナーゼの活性もmiR199#4投与によって改善する(有意に低下する)ことが観察された。以上の結果から、miR199#4、すなわちmiR-199-3pがmdxマウスの症状改善に効果があることが示されたとしている。
miR199#4、サルコペニアや筋ジストロフィー治療への応用に期待
今回の研究で、研究グループは血液と共に循環する細胞外マイクロRNAの中に加齢(老化)に伴って変化する細胞外マイクロRNAが存在することを明らかにした。そして、その中から筋再生や筋萎縮抑制に効果のあるmiR-199-3pを発見。先に述べたパラバイオーシスの実験結果と照らし合わせてみると、miR-199-3pはアンチエイジング因子としての働きがあるかもしれないと考えられる。
今回の成果は、老化研究や老化関連疾患の研究開発そして難治性筋疾患の研究に貢献する細胞外マイクロRNAという新たな核酸分子を明らかにしたといえる。
今後、この細胞外マイクロRNAの研究によって、それらの分野がさらに発展することが期待される。また、今回の研究で設計したmiR199#4は、筋損傷や加齢に伴う筋萎縮、例えばサルコペニア、そして筋ジストロフィーの治療に応用できると考えられるという。研究グループは、その実用化に向けて研究開発を続けていきたいとしている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース