病期におけるアストロサイトの変化を指標とする分類基準は存在しなかった
東北大学は3月29日、視神経脊髄炎関連疾患について、新規の病理学的分類を発表した。この研究は、同大病院脳神経内科学分野の三須建郎講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain誌」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
視神経脊髄炎関連疾患は国の指定難病の一つで、神経の繊維を絶縁する役目を持つ髄鞘が壊れ神経線維がむき出しになってしまう多発性硬化症の類縁の疾患と考えられていた。関連疾患全体での有病率は10万人あたり約10~20人で、約3万人の患者がいると推定されている。
研究グループは、視神経脊髄炎関連疾患は神経細胞そのものではなく、アストロサイトの傷害が原因となって起こる新しいタイプの疾患であることを明らかにしていた。しかし、疾患の初期にアストロサイトがどのように傷害されて神経障害が進み、どのような時間経過で神経組織が修復する過程に移行するのかは明らかになっていない。その1つの要因として、疾患の病期におけるアストロサイトの変化を指標とした分類基準がないことがあった。
補体の活動とアストロサイト形態により4期に分類可能
今回、研究グループは、視神経脊髄炎関連疾患の原因となる細胞であるアストロサイトについて、形態や病態マーカーの変化などに基づいた疾患時期の分類を報告。アストロサイトの形態異常から、以下の4期に分類されることが明らかになった。
(1)アストロサイト融解期:自己抗体および自然免疫の一つである補体によってアストロサイトが傷害され、細胞が広範に壊れてなくなってしまう。病態マーカーとして、アクアポリン4タンパク質の消失が観察される。補体によってできた膜に空いた穴(膜侵襲複合体)が広く観察され、壊れたアストロサイトの断片が免疫細胞に貪食された像などが観察される。
(2)前駆細胞発現期:広範囲にアストロサイトが破壊され、その結果さらに組織が傷害された状態で、新しくできたアストロサイトが出現し始める時期。一部に膜侵襲複合体が観察されるが、多くのアストロサイトは壊れて溶けてしまった後である。一方で貪食細胞によって髄鞘が傷害される。2か月以内の疾患初期に認められる。
(3)原形質細胞発現期:傷害を受けた組織に特徴的な星形の形態を示すアストロサイトが広く確認される時期。この時期には炎症細胞はほとんど認められない。広く髄鞘が破壊された領域には、膜侵襲複合体は観察されず、補体が活性した中間産物であり、抗体が結合する目印となるC3dの蓄積が認められる。
(4)神経膠症期:成熟したアストロサイトが密に増殖して傷害された領域全体を覆う時期。壊死が強い領域が多く、網目状に組織が傷害されているため組織が軟らかくなっていることが多い。C3dが慢性的に蓄積し、補体により生じた慢性的な病変であることが示唆される。これは、多発性硬化症とは異なる特徴と考えられる。
アストロサイト関連疾患の病態解明や治療開発への貢献に期待
このように、細胞傷害期から組織修復期においてアストロサイトがどのような役割を果たすのかが重要な鍵となる。今回の研究によって、アストロサイトが傷害されることで起きる病状の時期の分類が解明されたことで、今後アストロサイトが関連する視神経脊髄炎関連疾患や、他の炎症性疾患の病態解明や治療法の開発がさらに進むことが期待される。
「今回の発見により、これまで未解明だった神経疾患の病態理解が一層進むことが期待される」と、研究グループは述べている。
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