上皮系/間葉系の特徴は2Dより3D培養で増強、8種のヒト膵臓がん細胞で詳細を検討
東京都健康長寿医療センター研究所は3月26日、膵臓がん細胞株の上皮系または間葉系形質が立体培養の形態と抗がん剤に対する感受性に関連していることを発見したと発表した。この研究は、同大センターの南風花研究生、佐々木紀彦係長級研究員、石渡俊行研究部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
膵臓がんは高齢者を中心に急速に増加しており、発見時にはすでにがんが浸潤、転移し手術を受けられないことが多く、5年後に生存できる患者は約10%と深刻な状況が続いている。このため、一刻も早い膵臓がんの早期診断法と、新たな治療法の開発が求められている。膵臓がんは、さまざまな形態や性質(形質)のがん細胞から構成されており個人差が大きいことから、体の中で膵臓がんがどのように増殖し、どの抗がん剤が有効なのかといった詳細は解明されていない。
ヒト膵臓がんの症例では、個人によって遺伝子変異や、各種タンパク質の発現量および形態学的な違いがあることが報告されている。近年、研究グループは、細胞同士の接着や増殖、移動に関与する上皮系または間葉系の特徴が、平面的に培養する2次元(2D)培養と比較して、立体的に培養する3次元(3D)培養で増強されることを発見した。そこで今回の研究では、2Dおよび3D培養における8種類のヒト膵臓がん培養細胞株の形態学的および機能的特徴の違いを調べた。
ゲムシタビンは上皮系細胞に、アブラキサンは間葉系細胞により効果的
ほとんどの膵臓がん細胞は、2D培養で類似した形態を示していた。一方、3D培養では、上皮系細胞に高発現するE-カドヘリンが多く、間葉系細胞に発現するビメンチンが少ない上皮系の性質の膵臓がん細胞は、平らな被覆細胞で囲まれた小さな丸い球体を形成した。
これとは逆に、ビメンチンが高くE-カドヘリンが低い間葉系の性質を示す膵臓がん細胞は、がん細胞がブドウの房のように連なった凹凸のある大型の球体を形成し、高い増殖性を示した。さらに、現在用いられている抗がん剤の3D培養での効果について、ゲムシタビンは上皮系形質を示す膵臓がん細胞により効果的だったが、アブラキサンは間葉系形質の膵臓がん細胞に対してより有効だった。
今回の研究では、膵臓がん細胞がさまざまな異なったレベルの上皮系および間葉系の特徴を持っていることを明らかにした。3D培養法は、膵臓がん細胞株の多様性を調べるのに有用であり、膵臓がんの個別化治療法の開発に重要な役割を果たす可能性がある、と研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース