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改良型「ヒト胃消化シミュレーター」開発、食品の消化挙動をリアルに模擬-農研機構ほか

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2021年03月26日 AM11:30

「口腔内消化」は多くの知見があるが、「胃内消化」の知見は不十分

農研機構は3月25日、ヒト胃のぜん動運動を模擬し、ぜん動運動が駆動する条件下での食品の消化挙動を直接観察・評価できる「ヒト胃消化シミュレーター」を開発したと発表した。この研究は、同機構と筑波大学が共同で行ったもの。研究成果は、「Food Hydrocolloids」「日本食品科学工学会誌」「Biochemical Engineering Journal」に掲載されている。また、開発した装置は、株式会社イーピーテックにより製品化され、2021年3月より販売が開始されている。


画像はリリースより

世界に先駆けて超高齢社会に突入した日本における課題の1つとして、平均寿命と健康寿命の差の短縮が挙げられる。健康の維持・増進や疾病の予防に資する年齢や体質に対応した食品の開発は、健康長寿社会の実現に有効な手段の1つだ。高齢者向け食品の国内市場規模は1000億円を超えており、新しい介護食品(スマイルケア食)の普及推進に関する取り組みも進められている。

健康の維持・増進に資する食品を設計・製造するためには、摂食後の食品の消化管内動態を考慮することが望まれる。食品に含まれる栄養機能性成分は、口腔、、小腸での消化を経て吸収され得る状態になる。咀嚼を伴う口腔内消化については、国内外でのヒト臨床試験の実施により、数多くの知見が蓄積されてきた。

一方、小腸内消化・吸収に大いに影響する、胃内消化に関する知見は不十分だった。胃内消化のヒト臨床試験は、被験者の身体的負担などの理由により、実施に対するハードルが高いのが現状だ。そのため、固形食品などの胃内消化性を評価可能なin vitro試験装置の開発が切望されていた。しかし、従来のin vitro試験装置では、胃液の作用による化学的な消化プロセスの評価が中心であり、胃のぜん動運動が関与する物理的・化学的な消化プロセスを適切に考慮することができなかった。

傾斜を付けて食品の消化挙動をよりリアルに模擬、スペースも改良

農研機構と筑波大学は、ぜん動運動が活発に起きる幽門部の構造および機能を単純化したヒト胃消化シミュレーターの開発および同装置を利用した食品の消化挙動に関する研究を行ってきた。ヒト胃消化シミュレーターには、透明な前後面および伸縮性のあるゴム製の側壁からなる消化試験容器が設置されており、医学的知見に基づいた胃のぜん動運動の定量的な模擬および食品の胃内消化挙動の直接観察が可能だ。当初開発したヒト胃消化シミュレーターにおいては、上記の消化試験容器の中で消化試験が完結していた。その後、実際の胃内消化に近づけるため、胃液の分泌機構と胃消化物の排出機構を備えた連続式ヒト胃消化シミュレーターを開発した。しかし、これらのシミュレーターでは、消化試験容器の設置角度が床面に対して垂直に固定されているため、ヒト胃の傾きに対応可能な改良が求められていた。また、卓上型で容易に動かすことができず、装置から排出される胃消化物の回収スペースが狭くて手動で回収する必要があるなど、試験装置としての改良が必要だった。

そこで、床置き・可動型ヒト胃消化シミュレーターを開発した。同装置は、実験台の無い場所への設置に対応できることに加え、胃消化物の自動回収装置(市販品)を設置・利用可能なスペースが装置下部に設けられたことで、消化試験時の操作性が向上した。ヒト胃消化シミュレーターに装着される消化試験容器の傾斜(最大90度)を可能にし、ヒト胃の傾きを模した条件での消化試験が可能になった。これを利用することにより、現実に即した条件で汎用的な食品の消化試験を行うことが可能だという。イーピーテックにより製品化された同装置の価格は、約350万円~370万円(税別、装置構成による)だ。

同装置は、食品関連機関・企業での多様な食品の胃内消化性の評価・解析の際に活用が見込まれるもの。同装置の導入により、食品関連企業における新たな食品(スマイルケア食を含む)の設計・開発が期待され、また、同装置を利用した食品の胃内消化挙動の可視化データは、食育活動への活用が期待される、と研究グループは述べている。

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