インターネット上での簡単な認知機能検査実施で予測
東京大学は3月25日、ウェブ上での簡単なテストにより、アルツハイマー病の前駆状態に該当する可能性を予測するアルゴリズムを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科・佐藤謙一郎医師、岩坪威教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
アルツハイマー病に対する根本治療薬の開発において、認知機能が低下する前の前駆期に薬剤を投与することが重要と考えられるようになってきている。このアルツハイマー病前駆期(プレクリニカル期)に該当する者を適切に見出していくことが臨床試験を実施する上で必要になる。しかし、それに要する労力・コストがかかることが壁となっている。
研究グループは、このプレクリニカル期に該当する者を、インターネット上で年齢・性別などの他に簡単な認知機能検査などを行うことによって予測できるアルゴリズムを作成し、活用を開始した。
この簡単な認知機能検査をスクリーニングとして活用できるため、約5人にPET検査を実施し、うち1人のプレクリニカル期の者を初めて見出せるところを、より少ない人数のPET検査で済む、という資源効率的・費用経済的な効果が得られると期待される。また、ウェブ上で完結してスクリーニング評価が行えるため、これまで対面での検査・聞き取りが中心であった従来型の臨床研究よりも多くの者が気軽に参加でき、自身の認知機能に関心を持つ効果も期待できるという。
AUC0.81程度、良好なアルゴリズムの予測能
この成果は、2019年秋から開始している「J-TRCウェブスタディ」に登録した約3,000人のデータに適用。その中でプレクリニカル期に該当する可能性が高いと推測された者から順に、2020 年秋からJ-TRCウェブスタディに続く段階である「J-TRCオンサイト研究」参加を案内する上での参考指標として活用を開始している。
この予測アルゴリズムは、プレクリニカル期の者を対象に、抗アミロイドβ抗体医薬を投与する国際的な官民パートナー型臨床試験「A4研究」のためのスクリーニングの過程で得られた公開データを学習データとして用いて構築している。J-TRCウェブスタディ参加者のうち、一部の患者の過去のPET検査結果と、本アルゴリズムによるアミロイド蓄積の程度に対する予測結果とを照合すると、AUC0.81程度と、ある程度良好なアルゴリズムの予測能が得られた。このアルゴリズムにおいては、年齢が高い、自覚症状(CFIスコア)が強い、あるいは認知症の家族歴がある者のほうがアミロイド蓄積の程度がより強い傾向にあった。一方で、性別や就学年数はあまり影響しないという傾向があった。
訓練データは、大部分において米国人のデータで構成されているなどの限界点もあるが、同アルゴリズムを日本人に対して用いることにも、一定程度の妥当性があるものと考えられるという。
プレクリニカル期に対する汎用性のある予測アルゴリズム構築へ
同アルゴリズムによる予測が最終的にどの程度正しいものであるか、またこのアルゴリズムを利用することによりプレクリニカル期アルツハイマー病患者の正しい診断が可能となるかは、現在不明であり、今後の研究から解答が得られるものと考えられる。
「本アルゴリズムの限界点も踏まえながら、精度を検証、また性能を継続的に向上させることにより、将来的に、プレクリニカル期に対する汎用性のある予測アルゴリズムが構築できるものと期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京大学大学院医学系研究科・医学部 プレスリリース