かかりつけ医と腎臓専門医の診療連携を強化する介入で、増分費用効果比は質調整生存年当たり14万5,593円
筑波大学は3月24日、かかりつけ医と腎臓専門医の診療連携を強化する介入を行った場合の費用と効果を分析し、増分費用効果比は質調整生存年(QALY)当たり14万5,593円と評価されたと発表した。この研究は、同大大学医学医療系保健医療政策学・医療経済学の大久保麗子助教、近藤正英教授、新潟大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Renal Nutrition」に掲載されている。
画像はリリースより
慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)はタンパク尿の存在や腎臓の機能低下などが3か月以上続く状態を指し、末期腎不全や心血管疾患の危険因子とされている。慢性腎不全が進行して透析療法が始まると、一生透析を続ける必要がある。
透析医療に要する医療費は1人当たり約500万円とされており、社会的にも負担となっている。このため、腎機能障害になる可能性の高い患者を早期に発見して適切な治療を施し、透析導入患者の減少につなげる医療が必要とされている。しかし、推計1300万人とされるCKD患者を腎臓専門医だけで管理、加療することは不可能だ。腎臓を専門としない、かかりつけ医、看護師、栄養士からなるチーム医療で、対応していく必要がある。
2006年から、かかりつけ医、腎臓専門医らによる医療システムの有効性などを検証
筑波大学医学医療系腎臓内科学の山縣邦弘教授らは2006年から、慢性腎臓病重症化予防のための戦略研究(FROM-J研究)を通して、かかりつけ医、腎臓専門医、コメディカルとの協力による医療システムの有効性、有用性を検証してきた。FROM-J研究では、全国15都道府県で腎臓病の診療をリードする大学病院が拠点施設、その近隣の49地区医師会が研究実施地域となった。医師会におけるかかりつけ医489人とCKDステージ1~5の慢性腎臓病患者2,379人が参加した。
最初の3年半で、軽症例の慢性腎臓病患者への生活食事指導を含む診療支援は、腎機能悪化抑制に有効なことが明らかとなった。このFROM-J研究は継続中(FROM-J10)で、現在は10年後の予後調査が行われている。
非専門医や専門医の連携強化、生活食事指導の強化介入は、費用対効果に優れる政策決定
From-J研究の3年半の成果に基づき、研究グループは今回、かかりつけ医と腎臓専門医の診療連携の強化を図る介入の費用と効果を分析した。今回、介入とは、慢性腎臓病患者に対する生活指導、服薬指導、食事指導、受診促進の全てを含めた生活食事指導のことを指す。そして、介入を選択することに伴う増分費用効果比を推計し、介入の普及を進めるという政策決定が費用対効果に優れるか否かを検討した。
具体的には、かかりつけ医/非腎臓専門医と腎臓専門医の診療連携を強化するため、生活食事指導による介入に関する経済モデルを構築。経済モデルでは、FROM-J研究で観察された3年半より後のCKD患者の予後を推計するために、マルコフモデルを作成。CKDステージごとに腎臓専門医への紹介、かかりつけ医への逆紹介の割合を反映させ、心血管イベントや透析への進展を組み込み、CKD患者の長期的な予後を推計した。
生活食事指導による介入費用は現在の診療報酬には含まれていない。そこでFrom-Jにおける実査を基に、外部から管理栄養士を呼ぶための交通費などを考慮して、受診勧奨に関する費用を1,500円と推計。これに30分の栄養指導2,000円(2018年度診療報酬外来栄養食事指導料:2,000円)と合わせて、生活食事指導による介入の費用を1回当たり3,500円とした。
その結果、生活食事指導による介入の増分費用は年間1万6,164円、QALYの増分効果(健康寿命の延伸)は0.111018となり、増分費用効果比は14万5,593円/QALYとなった。つまり、「1人の健康寿命を1年延ばすために、追加的に社会全体で14万5,593円支払えばよい」と解釈できる。日本で評価基準の閾値となっている500万円/QALYと比較すると、極めて費用対効果に優れる値だったとしている。
今回、かかりつけ医/非腎臓専門医と腎臓専門医の連携の強化を図り、生活食事指導を強化する介入を普及することが、費用対効果に優れる政策決定であることが明らかとなった。この介入を普及させるためには、受診勧奨を含めた生活食事指導に関する診療報酬の改定や、CKD診療ガイドラインへの追加などが重要と考えられる、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL