候補薬物効果の検証システム開発へ
東北大学は3月22日、膵胆道がんの個別化医療モデルを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科病態病理学分野の椎原正尋大学院博士課程学生、古川徹教授ら、東北大学病院総合外科、東北大学未来型医療創成センター、東京女子医科大学消化器・一般外科の研究グループによるもの。研究成果は、英国学術誌「European Journal of Cancer」に掲載されている。
画像はリリースより
膵胆道がんは治療が難しく、予後が悪いことが知られている。その要因のひとつとして、薬物治療法の選択肢が他のがんと比較して少なく、その薬剤が効く効率も低いことがあげられる。
がんの発生には遺伝子変異が大きく関与し、かつ、その種類や変化の仕方が極めて多岐にわたるため、患者個々の遺伝的背景、環境、ライフスタイルを考慮し、個々人に最適な医療を提供する個別化医療が必要となってくる。特に、膵胆道がんのような治療の選択肢の少ないがんでは、腫瘍個々の遺伝子解析による個別化医療が予後を改善させる打開策になると考えられている。しかし、実際に候補とした薬物がどのような効果をもたらすかは不確定であり、その検証システムの開発が求められている。
オルガノイドとは「ミニ臓器」と言われる三次元構造体。従来研究で用いられてきた二次元細胞よりも生体内の細胞に近いとされ、患者のがん組織から作り出されたがんオルガノイドは、がんモデルとしてさまざまな研究への応用が期待されている。今回、研究グループは、このオルガノイドの特性を生かすことで、膵胆道がんに対する個別化医療の検証システムとして用いることができるかもしれないと考え、研究を進めた。
特異的阻害薬の効果、患者由来がんオルガノイドで確認
今回、54人の患者から得られたがん組織の検体からオルガノイド培養を試みた。その結果、培養細胞は風船状オルガノイドと塊状オルガノイドに分類できることを見出した。また、病理学的特徴と遺伝子変異の確認から、風船状オルガノイドは正常細胞由来のオルガノイドであり、塊状オルガノイドが真のがんオルガノイドであることが明らかとなった。塊状のがんオルガノイドを選択的に培養していくことで、以前の報告よりも高確率で膵胆道がん由来オルガノイドを培養することに成功した。
次に、今まで培養成功報告の少ない胆道がんについて、腫瘍組織から抽出したDNAの全エクソン解析を実施。その結果、胆道がんには多岐にわたるさまざまな分子異常が関与していることが示されたものの、がんの原因となる全体に共通した遺伝子変異は認められなかった。この結果より、個別化の重要性が確認された。さらに、個別の遺伝子変異プロファイルから治療標的となり得る候補分子を見出し、それらに対する特異的阻害薬の効果を患者由来のがんオルガノイドで確認できたという。
LKタンパク質阻害剤、患者由来がんオルガノイドに作用で細胞増殖を抑制
特に、今回の研究では、遺伝子候補の中から胆嚢がん症例で遺伝子変異を起こしていたインテグリン結合キナーゼ(ILK)遺伝子に注目。ILK遺伝子の変異は他のがん腫では発がんに関与している報告が認められているが、胆道がんでは明らかになっていなかった。
ILKタンパク質の阻害剤を患者由来のがんオルガノイドに作用させたところ、細胞増殖が抑制され、ILKタンパク質の標的であるリン酸化AKTタンパク質の量が減少した。このことから、この患者のがんに対して同薬剤が実際に効果を示す可能性が高いことを示すことができたとしている。
がん患者由来のがんオルガノイド使用の有効性が明らかに
今回の研究成果により、がん患者由来のがんオルガノイドをがんのモデルとして使用する有効性が明らかとなり、オルガノイドの特性を生かした個別化医療システムが開発された。
がんゲノム医療が普及していく中で、腫瘍個々のゲノム情報に基づいた個別化医療の重要性がさらに増している。特に、難治がんである膵胆道がんに対する個別化医療の期待は大きく、実際に患者のがんについて候補薬剤の効果を検証できる同研究で開発したシステムは、より効果的な個別化医療の実践につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース