がん幹細胞に発現する因子CDK8ががん幹細胞機能を制御
岐阜大学は3月17日、がん幹細胞に発現する因子Cyclin-dependent kinase 8(CDK8)ががん幹細胞の機能を制御していることを発見し、その詳細な分子メカニズムを明らかにするとともに、CDK8がグリオブラストーマ治療における有望な創薬ターゲットとなることを明らかにしたと発表した。この研究は、岐阜薬科大学大学院薬科学専攻の深澤和也大学院生(日本学術振興会特別研究員)、堀江哲寛大学院生(日本学術振興会特別研究員)、同大薬理学研究室・岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の檜井栄一教授ら、京都薬品工業株式会社、金沢大学、東京大学の研究グループによるもの。研究成果は、英国学術雑誌「Oncogene」に掲載されている。
画像はリリースより
グリオブラストーマは、悪性度の高いがんの1種であり、確定診断後の平均余命は14か月程度とされている。グリオブラストーマは、脳組織に染み込むように広がっていくため、手術により完全に取り除くことができない。また、手術後に抗がん剤投与や放射線治療を行ったとしても、2年生存率は3割以下とされており、治療成績は数十年もの間、大きな改善は見られていない。
近年の研究から、がん幹細胞が治療後も体内に残ることが治療を困難にしている原因の1つであることがわかってきた。がん幹細胞は、抗がん剤や放射線に対して治療抵抗性を持つことが知られており、がん幹細胞の制圧によって、グリオブラストーマの治療成績向上が期待される。しかし、これまでに、がん幹細胞の機能がどのようにして制御されているのかについて、全貌は明らかになっていなかった。
マウスにCDK8不活性化細胞移植で、腫瘍はほとんど確認されず
研究グループは、まず、バイオインフォマティクス解析を用いて、グリオブラスオトーマ患者の腫瘍組織の解析を実施。その結果、CDK8発現が増加していることがわかった。グリオブラストーマ患者由来のがん幹細胞のCDK8の働きを抑えることによって(=CDK8不活性化細胞の作製)、がん幹細胞におけるCDK8の役割を明らかにすることを試みた。その結果、がん幹細胞の機能の指標であるスフィア形成能が大幅に低下することがわかった。
さらに、CDK8不活性化細胞をマウスに移植したところ、腫瘍はほとんど確認されず、観察期間中に死亡例は1例も出なかったという。これらのことから、がん幹細胞の腫瘍形成能にはCDK8が重要であることが明らかになった。
CDK8、c-MYC発現調節でがん幹細胞の機能を制御
次に、なぜCDK8の働きを抑えるとがん幹細胞の機能が低下するのかを明らかにするため、CDK8不活性化細胞について、詳細な解析実施した。
その結果、がん幹細胞の機能を調節しているタンパク質c-MYCの発現低下がわかった。したがって、CDK8はc-MYCの発現を調節することで、がん幹細胞の機能を制御していることが考えられた。
新規CDK8阻害剤KY-065を開発、マウス生存期間を改善
また、研究グループは、今回の研究で得られた知見を臨床現場に還元することを目指し、新規CDK8阻害剤KY-065の開発に成功した。
KY-065をがん幹細胞に作用させると、スフィア形成能が低下することが判明。さらに、KY-065を作用させたがん幹細胞をマウスに移植したところ、マウスの生存期間は著しく改善されたという。これらのことから、KY-065は、新規グリオブラストーマ治療薬となる可能性が示唆された。
最後に、同研究で得られた知見と臨床データとの関連を明らかにすることを試みた。バイオインフォマティクス解析によって、大規模臨床データを解析したところ、CDK8の発現が増加しているグリオブラストーマ患者では生存率が低下していることが明らかになった。
今後、KY-065と既存薬や放射線療法の併用での治療効果を検討
研究グループは今回、CDK8がグリオブラストーマにおけるがん幹細胞の制御因子であることを発見した。同研究は、がん幹細胞のCDK8が有望な創薬ターゲットになることを細胞・生体レベルで明らかにした世界初の報告となるという。また、新規がん幹細胞標的薬としてCDK8阻害剤KY-065の創製に成功し、その有効性を実証することができたとしている。
今後、KY-065と既存薬テモゾロミド、あるいは放射線療法の併用によって、治療効果を高めることができるかどうかを検討していくとしている。また、同研究成果はグリオブラストーマに限らず、がん幹細胞が悪性化に寄与するさまざまな難治性がんに対する革新的治療法を提供し、アンメット・メディカル・ニーズの解消にも貢献することが期待される、と研究グループは述べている。
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