関節リウマチの所見前に発症の傍関節性骨粗しょう症、メカニズムは?
東京大学は3月16日、関節リウマチのマウスモデルを用いた解析により炎症関節近傍の骨の骨髄に存在する抗体を産生する形質細胞が破骨細胞分化誘導因子RANKLを発現することで破骨細胞を誘導し、傍関節性骨粗しょう症をひきおこすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の小松紀子助教、高柳広教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Clinical Investigation」に掲載されている。
画像はリリースより
関節リウマチは、炎症に伴って骨破壊が誘導される最も頻度の高い自己免疫疾患の1つだ。関節リウマチの骨破壊には、「関節破壊(骨びらん)」「関節近傍の骨粗しょう症(傍関節性骨粗しょう症)」「全身性骨粗しょう症」の3種類があるとされている。破骨細胞は破骨細胞誘導因子RANKLによって分化誘導され、関節リウマチの3つすべてのタイプの骨破壊を引き起こす原因細胞だ。したがって、それぞれの骨破壊においてRANKL発現細胞を同定することは、関節リウマチの骨破壊のメカニズムと治療法の開発に重要な知見をもたらすと考えられる。
関節リウマチでは、自己抗原の提示を受け活性化したT細胞がB細胞から形質細胞への分化を誘導して自己抗体が産生される。炎症関節では、活性化T細胞やマクロファージなどから産生された炎症性サイトカインが滑膜線維芽細胞のRANKL発現を上昇させ破骨細胞を誘導すると考えられている。
骨粗しょう症は、関節リウマチ患者の骨折リスクを上げ、生活の質を下げるが、これまでの治療法では関節破壊の進行を抑制できても骨粗しょう症は十分に抑制できず、新しい治療法の確立が望まれている。自己抗体のひとつである抗シトルリン化ペプチド抗体は関節リウマチの診断マーカーだが、関節リウマチの発症に先行し、抗シトルリン化ペプチド抗体の産生や傍関節性骨粗しょう症がみられることが知られている。しかしながら傍関節性骨粗しょう症のメカニズムは不明な点が多く、骨破壊を誘導するRANKL発現細胞も同定されていなかった。
作製したマウスで、形質細胞のRANKL発現と破骨細胞誘導を確認
今回、研究グループは、RANKLを発現した細胞が蛍光標識されるRANKLレポーターマウスを新たに作製し、関節リウマチのマウスモデルとして汎用されるコラーゲン誘導性関節炎を誘導した。その結果、骨髄中では形質細胞で、炎症関節の滑膜では滑膜線維芽細胞に高いRANKL発現がみられることがわかった。
形質細胞による破骨細胞誘導能を検討するため破骨細胞の前駆細胞と共培養すると、試験管内で「形質細胞は破骨細胞誘導能をもつ」こと、RANKLの発現を欠損した形質細胞は破骨細胞を誘導できないことから「形質細胞はRANKLを発現することで破骨細胞を分化誘導できる」ことが明らかとなった。
炎症関節近傍骨の骨髄中で形質細胞増加<RANKL発現<骨粗しょう症
炎症関節近傍の骨の骨量と骨髄中の形質細胞の細胞数の関連を経時的に検討したところ、関節炎の炎症が起きる前から関節近傍の骨の骨量が減少する一方で、骨の骨髄中の形質細胞の細胞数が増えていることがわかった。炎症関節から離れた脊椎では、関節炎が進行してから骨量減少が認められ、形質細胞の増加も認められなかった。これは形質細胞が関節炎の発症に先立って関節近傍の骨で増え骨粗しょう症を誘導することを示唆している。
次に、形質細胞が発現するRANKLの傍関節性骨粗しょう症における役割を生体レベルで検討するため、RANKLをB細胞系列特異的に欠損するマウスをコラーゲン誘導性関節炎感受性のDBA1/J系統で作製し、関節炎を誘導した。興味深いことにB細胞系列でRANKLを欠損したマウスでは関節炎を誘導しても破骨細胞の数が増加せず、野生型マウスと比較して関節近傍の骨の骨量減少が小さいと判明。完全に骨量減少が防げなかったことからは、関節近傍の骨の骨量減少には破骨細胞の数以外の要因も絡むことがうかがえた。一方で、B細胞系列でRANKLが欠損したマウスでは全身性骨粗しょう症の指標である脊椎の骨量減少は抑制されなかった。以上より、B細胞系列のRANKLが傍関節性骨粗しょう症に重要であることが示された。
さらに、生体内において関節破壊を引き起こす主要なRANKL発現細胞を同定するため、RANKLを滑膜線維芽細胞、T細胞、B細胞系列特異的に欠損するマウスをDBA1/J系統で作製し関節炎を誘導。その結果、関節では滑膜線維芽細胞にRANKLを欠損させたマウスでのみ関節破壊の抑制が認められた。したがって、関節破壊では滑膜線維芽細胞が主要なRANKL発現細胞であることが生体レベルで明らかとなった。以上の研究結果より、関節近傍の骨では骨髄中の形質細胞の細胞数が増加してRANKLを介して破骨細胞を誘導し、傍関節性骨粗しょう症を引き起こすことが明らかとなった。また滑膜線維芽細胞が産生するRANKLが関節破壊に重要であることが実証された。
形質細胞を標的にした新規治療法開発に期待
今回の研究では、形質細胞がRANKLを介して傍関節性骨粗しょう症を誘導することが明らかとなった。形質細胞は骨髄中に存在し、炎症時に大量に産生される抗体や炎症性サイトカインは炎症や骨破壊に働くことが知られている。同研究から、形質細胞が関節リウマチの発症に先立って関節近傍の骨の骨髄に集積し、「RANKL」「抗体」「炎症性サイトカイン」という3つの武器を駆使することで傍関節性骨粗しょう症を引き起こすことが考えられる。傍関節性骨粗しょう症は関節リウマチの臨床所見に先立つことからも、同研究は関節リウマチの新しいメカニズムの解明につながる知見を提供し、形質細胞を標的とした傍関節性骨粗しょう症の治療法を提唱するものとして意義があると考えられる。
さらに、今回の研究では、関節破壊における滑膜線維芽細胞の重要性を生体レベルで実証することに成功した。近年、滑膜線維芽細胞はさまざまな異なる機能を有する亜集団から構成されることが報告されている。「今回の研究に基づいて、今後はRANKLを発現する悪玉の滑膜線維芽細胞を標的とした関節破壊の治療法のさらなる開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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