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白血病細胞の「弱点」タンパク質を5つ同定、個別化医療に前進-理研ほか

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2021年03月22日 AM11:30

急性骨髄性白血病の再発克服と根治の方法を探索

(理研)は3月19日、白血病ヒト化マウスを用いて、白血病細胞の「弱点」であるタンパク質の阻害剤を投与することで、白血病細胞を効果的に死滅させる方法を突き止めたと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センターヒト疾患モデル研究チームの石川文彦チームリーダー、齊藤頼子上級研究員、橋本真里基礎科学特別研究員らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Cancer」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

白血病を発症すると免疫が失われることから、患者は感染症など他の病気の危険性も高まる。白血病の治療には、抗がん剤により白血病細胞を減らし、さらに大量の抗がん剤で治療した後に、骨髄や臍帯血を用いて造血幹細胞を移植する方法が確立されている。しかし、それでもなお根治できずに再発し、命を失う患者も少なくない。

理研では、難治性白血病患者の治療を牽引する虎の門病院血液内科との15年間にわたる共同研究のもと、これまでに、急性骨髄性白血病の再発を引き起こす細胞や再発の原因に関する研究を発表してきた。今回研究グループは、虎の門病院での診療において完全な治癒に至らなかった患者検体を用いて、急性骨髄性白血病の再発克服と根治の実現を目指した。白血病など血液を専門とする研究チームに加え、遺伝子計測、遺伝子解析、タンパク質の構造予測、機械学習など理研の3つの研究センターからなる計7研究チームで、虎の門病院血液内科のチームとともに研究を進めた。

根治に至らなかったAML患者検体を解析、5つの「弱点」タンパク質を同定

急性骨髄性白血病を根治するには、増殖と生存を続ける悪性化した白血病細胞を死滅させる方法を見つける必要がある。研究グループはまず、現在の治療法では根治に至らなかった患者検体に集中して研究を進めることにした。今回、患者の白血病細胞と正常な血液を作り出す造血幹細胞の遺伝子を比較し、造血幹細胞には少なく、白血病細胞に多い遺伝子を選出。そして、これらの遺伝子から作られるタンパク質を治療標的の候補として、正常な血液や免疫を障害せず白血病細胞を選択的に治療する方法を探索した。

治療標的の候補となるタンパク質の働きを停止させる阻害剤を白血病細胞に与えた場合に、白血病細胞が実際に生存・増殖できなくなるかについて、試験管内で38種類の阻害剤を患者10人の白血病細胞に対して調査。その結果に基づき5種類の最も優れた阻害剤に絞り、さらに患者97人の白血病細胞を用いて検討を続けた。その結果、73人(73/107=68%)の患者で、IAPというタンパク質の機能が阻害されたときに白血病細胞が最も有効に死滅することを発見。さらに他の患者では、BCL2、MCL1、AURKB、CENPEなどのタンパク質を標的とした場合にも白血病細胞が死滅した。つまり、これら5つのタンパク質が白血病の「弱点」であることを見出した。

5つのタンパク質がどのタイプの白血病の弱点になるかの関連付けに成功

次に、生体内の骨髄・脾臓・血液などで、治療効果を正確に定量的に評価することが重要と考え、患者白血病細胞を用いて、患者それぞれの白血病の状態をマウスに再現した「白血病ヒト化マウス」を作製した。白血病ヒト化マウスでは、骨髄で白血病細胞が増え始め、次第に骨髄から血液中に白血病細胞が出て、脾臓などの骨髄以外の組織に浸潤する。白血病ヒト化マウスが患者白血病状態を再現したことを確認した上で、IAP阻害剤とBCL2阻害剤、IAP阻害剤とAURKB阻害剤など、試験管内の検討で患者白血病細胞が特に高い感受性を示した阻害剤を2種類選んで投与した。すると、血液中だけでなく骨髄や脾臓に存在していた白血病ヒト化マウスの患者由来白血病細胞も完全に死滅することが確認された。さらに、他の阻害剤の組み合わせでも、それぞれ異なるメカニズムで患者由来白血病細胞が有効に死滅することがわかったという。

同じ急性骨髄性白血病でも、その原因となる遺伝子の異常は患者ごとに異なることが、遺伝子研究で明らかになりつつある。つまり、5つのタンパク質の阻害剤に対して、全ての患者白血病細胞が一様な感受性を示すわけではない。研究グループは最後に、患者体内で発生した遺伝子異常の種類と最適な治療を結びつけることを目指し、研究を行った。患者ごとに発生している染色体や遺伝子の異常(FLT3、MLL、NRAS、IDH1など)を調べ、どの染色体や遺伝子に異常があると、5つのうちどのタンパク質の阻害剤が有効であるかを関連付けることに成功した。

その他血液疾患や固形がんの理解と克服への応用に期待

今回の研究では、専門家が明らかにした結果を、議論・評価し統合的に解析・解釈することで、白血病細胞を死滅させる方法を突き止めることに成功した。患者への応用には、引き続きさまざまな検証が必要だが、同成果をもとに、個々の患者に最適な方法で急性骨髄性白血病を完全に克服する新しい治療が確立されることが期待される。

「本研究における複数の科学を融合させて難病を克服するアプローチが、急性骨髄性白血病以外の血液疾患や、さまざまな臓器に発生する固形がんの理解と克服にも応用・展開されることが期待できる」と、研究グループは述べている。

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