横浜市で、COVID-19流行前後の呼吸器感染症ウイルス検出状況を比較
東京大学医科学研究所は3月15日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下における呼吸器感染症ウイルスの検出状況を調査した結果を発表した。この研究は、同研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループと、横浜市衛生研究所の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Influenza and Other Respiratory Viruses」に掲載されている。
画像はリリースより
COVID-19は、2020年1月に日本国内の第1例目が報告され、その後、全国に拡がった。流行は今も続いており、インフルエンザをはじめとするその他の呼吸器感染症との同時流行も心配されている。そこで研究グループは、COVID-19流行前後における呼吸器感染症ウイルスの検出状況を比較した。
検出されたのは、いずれもアルコール消毒液が効きにくいウイルス
研究では、2018年1月~2020年9月に、横浜市で2,244人の呼吸器疾患患者(COVID19患者を除く)から採取された呼吸器検体(鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻汁、唾液、気管吸引液、喀痰)を解析し、代表的な呼吸器感染症ウイルス(インフルエンザウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルスA, B、エコーウイルス、エンテロウイルス、ヒトコロナウイルス229E, HKU1, NL63, OC43、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス1, 2, 3, 4、パレコウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ボカウイルス、パルボウイルスB19、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス)の検出を行った。
2,244人の患者の内訳は、男性が1,197人(53.3%)、女性が1,044人(46.5%)、性別不明が3人(0.1%)、また、10歳未満が1,119人(49.9%)、10歳以上が1,105人(49.2%)、年齢不明が20人(0.9%)だった。
2,244人の検体のうち、最も多く検出されたのはインフルエンザウイルス(592人)で、次いでライノウイルス(155人)だった。475人からはその他の呼吸器感染症ウイルスが検出された。インフルエンザウイルスによって引き起こされるインフルエンザは主に冬に流行し、ライノウイルスによって引き起こされる風邪は主に春と秋に流行する。横浜市では2020年2月に初めてCOVID-19患者が報告され、10歳以上ではその後、報告数が増加していったが、10歳未満ではほとんど報告がなかった。一方、ライノウイルスの検出率は、COVID-19の流行下では10歳未満の小児で著しく上昇し、例年の2倍以上となった。インフルエンザウイルスやその他の呼吸器感染症ウイルスの検出率は、全年齢層でCOVID-19流行後に低下した。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やインフルエンザウイルスは、ウイルスの表面が脂質の膜(エンベロープ)で覆われている。エンベロープを持つウイルスは、アルコール消毒液や石鹸にさらされると破壊され、感染できなくなる。一方、ライノウイルスはエンベロープを持たないため、アルコール消毒液が効きにくいことが知られている。COVID-19の流行拡大後に横浜市で検出されたウイルスは、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルスで、いずれもエンベロープを持たないウイルスだった。COVID-19流行下でのライノウイルスの流行には、このようなウイルスの安定性も関係している可能性が考えられる。なお、石鹸と水を使う手洗いはライノウイルスにも有効だ。
引き続き呼吸器感染症ウイルスの検出状況を調査し、情報提供を続けることが重要
今回の研究により、COVID-19流行下で10歳未満の小児のライノウイルス感染リスクが上昇したことが明らかにされた。ライノウイルスは風邪を引き起こす主要な原因ウイルスだが、肺炎などの合併症を引き起こし重症化することもある。今後も引き続き、呼吸器感染症ウイルスの検出状況を調査し、COVID-19流行下での感染リスクについて広く情報提供を行うことが重要であると考える、と研究グループは述べている。
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