子宮内膜腺管の正確な3次元構造を理解するために
新潟大学は3月16日、ヒト子宮組織の透明化と3D画像解析を行い、正常子宮内膜や子宮腺筋症病巣の3次元構造を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、吉原弘祐講師、同医歯学総合病院総合周産期母子医療センターの山口真奈子特任助教、同脳研究所システム脳病態学分野の田井中一貴教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「iScience」に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトは月経という生理現象を有する、極めてまれな動物。ヒトの子宮内膜は毎月のように剥離・再生を繰り返している。子宮内膜を構成している腺管は、コイル状のうねりや、しばしば分岐を伴いながら、表層の開口部から機能層(月経で剥がれ落ちる部分)を通って基底層(月経でも残存する部分)まで続いている。
これまで子宮内膜の腺管の構造は病理切片画像による2次元的な観察によって定義づけられてきた。しかし、腺管はうねりや分岐を伴う複雑な形態をしているにもかかわらず、その正確な3次元構造は明らかになっていなかった。子宮内膜の腺管は受精卵の着床に必須であり、子宮腺筋症、子宮内膜症、内膜症関連卵巣がんといった子宮内膜関連疾患や子宮体がんの発生母地でもある。
近年、病理学的に「正常」な子宮内膜腺管組織に多数のがん関連遺伝子変異があることがわかってきており、正常内膜組織への注目が高まっている。子宮内膜腺管の正確な3次元構造を理解することは、あらゆる産婦人科疾患の病態を解明するうえで極めて重要だ。
ヒト子宮内膜の基底層、腺管の網目構造が存在
今回、研究グループは、子宮内膜に異常のない婦人科疾患のために子宮摘出手術を受けた患者より研究参加の同意を得て、摘出子宮から採取した組織の3D画像を解析。具体的には、数mmから数cm角に切り出した子宮組織をCUBICという手法を用いて透明化し、さらに上皮組織のマーカーであるCK7で蛍光染色を行った。シート証明顕微鏡を用いて透明化した標本を撮影し、画像解析ソフトを用いて得られた画像データを3D化し、観察・解析した。合計20個の正常子宮内膜サンプルと4個の子宮腺筋症サンプルを撮影し、その特徴的な3次元構造を評価した。
正常子宮内膜組織を3Dで観察することで、腺管が分岐するだけでなく、基底層で網目のような構造(地下茎)を形成し、しばしば複数の腺管が同一の網目構造を共有していることが判明。この地下茎構造は観察した正常子宮内膜20サンプル全てで観察された。この発見から、正常子宮内膜の組織学的構造の新しい概念を提唱した。
異所性の子宮内膜腺管組織、筋層内で蟻の巣のような3次元構造形成
次に、子宮内膜関連疾患である子宮腺筋症の3D化を実施。子宮腺筋症の発症メカニズムにはさまざまな説があり、どのように筋層内で異所性の内膜組織が発生し、腺筋症病巣を形成するのかは明らかでなかった。
今回の3D解析によって、腺管が子宮内膜から直接筋層へ侵入する様子を初めて3Dで捉えた。さらに、異所性の子宮内膜腺管組織が筋層内で細い枝を伸ばして広がっていき、蟻の巣のような3次元構造を形成していることを発見したという。
内膜関連疾患・子宮体がん発症メカニズム解明に期待
ヒト子宮内膜は剥離と再生を繰り返す組織であるため、幹細胞が存在するといわれているが、いまだにその正確な所在はわかっていない。また、月経を起こさないマウスの子宮内膜腺管3D解析の既報では、今回のような地下茎構造は存在していない。ヒト子宮内膜基底層の地下茎構造は剥離時の幹細胞の保護に有利に働いていると考えられ、今後の幹細胞研究の重要な要素となる可能性がある。
近年、正常子宮内膜腺管や腺筋症の異所性内膜上皮にがん関連遺伝子変異が存在することがわかってきている。これらの組織の3次元構造とゲノム解析を組み合わせることで遺伝子変異の空間的な広がり方や内膜関連疾患・子宮体がんの発症メカニズムの解明につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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