インターフェロン産生抑制がCOVID-19病態と関連?その原理の全容は?
東京大学医科学研究所は3月15日、ウイルス感染に対する免疫応答の中枢を担うインターフェロンの産生を抑制する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のタンパク質ORF6を発見したと発表した。この研究は、同研究所附属感染症国際研究センターシステムウイルス学分野の佐藤佳准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学雑誌「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
SARS-CoV-2は2021年3月現在、全世界において感染者1億人以上、死亡者250万人以上とされている。現在、世界中でワクチンや抗ウイルス薬の開発が進められており、日本においてもワクチンの接種が開始されている。一方、約1年前に突如出現したこのウイルスについては不明な点が多く、感染病態の原理についてはほとんど明らかとなっていない。
過去の研究では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者の解析から、この感染症の特徴のひとつとして、ウイルス感染に対する生体防御の中枢を担う物質インターフェロンの産生が、インフルエンザやSARSなどの他の呼吸器感染症に比べて顕著に抑制されていることが明らかとなっている。また、同研究グループを含む世界中の研究室において、SARS-CoV-2の性状を明らかにするためのさまざまなウイルス学的解析が進められている。
また、インターフェロン産生の抑制が、急性呼吸促迫症候群(ARDS)やサイトカインストームなど、COVID-19に特徴的な現象に関連することから、これがCOVID-19の病態と関連する可能性があると考えられている。しかし、その原理の全容については、ほとんど明らかとなっていない。
SARS-CoV-2のORF6、SARSウイルスのORF6よりも強いインターフェロン抑制機能
研究グループはまず、遺伝子ORF6が、SARS-CoV-2を含むサルベコウイルス亜属に分類されるコロナウイルスに特異的な遺伝子であることを発見。次に、培養細胞を用いた実験により、SARS-CoV-2のORF6には、SARSウイルスのORF6よりも強いインターフェロン抑制機能があることを見出した。
なお、先行研究において、イベルメクチンやセリネクソールという化合物がCOVID-19の新規治療薬となる可能性、またあるいは、ORF6の機能を阻害する薬剤となる可能性が示唆されていたが、これらの薬剤は、ORF6によるインターフェロン抑制機能には影響を与えなかった。
約0.2%の流行株にはORF6遺伝子欠損変異が挿入、インターフェロン抑制機能欠失か
続いて、ORF6変異体シリーズを用いた培養細胞実験の結果、SARSウイルスのORF6に比したSARS-CoV-2のORF6の強いインターフェロン抑制効果は、46番目のアミノ酸の違いによって規定されることが明らかになった。また、SARS-CoV-2のORF6は、C末端領域依存的にインターフェロンを抑制することがわかったという。
そして、約6万のSARS-CoV-2流行株のゲノム配列を解析した結果、約0.2%の流行株には、ORF6遺伝子が欠損する変異が挿入されており、インターフェロン抑制機能が欠失している可能性が示唆された。また、英国ウェールズにおいて、ORF6欠損株が散発流行していたことも明らかになった。
以上の結果より、SARS-CoV-2のORF6には強いインターフェロン抑制機能があり、それがCOVID-19の病態発現において重要な役割を果たしている可能性が示唆されたとしている。
SARS-CoV-2、複数の強力なインターフェロン抑制タンパク質をコードか
同研究グループは、先行研究において、ORF3bというSARS-CoV-2のタンパク質にも、インターフェロン応答を抑制する機能があることを見出している。今回のORF6に関する研究成果や、他の研究グループからの研究成果から、「SARS-CoV-2は、複数の強力なインターフェロン抑制タンパク質をコードしている」ことが明らかになってきている。
そしてこれら2つの研究成果から共通して言えることは、流行拡大に伴って、SARS-CoV-2の遺伝子にはさまざまな変異が蓄積すること、そしてそれがCOVID-19の軽症化や病態増悪という感染病態の程度と関連する可能性があることが示唆されていることだという。
今回の研究では、公共データベースを用いた解析から、ORF6遺伝子が欠損したウイルス配列を複数捕捉することに成功した。しかし、ウイルス配列情報と臨床症状の情報がほとんど紐づけられていないため、ORF6の欠損がCOVID-19の病態に与える(与えた)影響は不明のままだ。今後は、臨床情報が紐づいたウイルスの配列を取得する必要性、そして、新型コロナウイルスの感染病態と関連のある可能性がある変異、例えば、「無症候・軽症と関連のある変異=弱毒化変異」や「重症化と関連のある変異=強毒化変異」を捕捉し、それを実験的に検証する必要性があると考えている、と研究グループは述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース