サルコペニアと運動耐容能低下の状態は術後経過にどのような影響?
名古屋大学は3月8日、非小細胞肺がん患者における術前のサルコペニアおよび運動耐容能(持久力)と生命予後との関係を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科呼吸器外科学の芳川豊史教授、同大医学部附属病院呼吸器外科の尾関直樹病院講師(責任著者)、リハビリテーション科の西田佳弘病院教授、リハビリテーション部の田中伸弥療法士(筆頭著者)らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
肺がんは、世界における主要な死亡原因の一つ。非小細胞肺がんは、原発性肺がんの約80%を占め、早期がんの標準治療として外科手術が選択される。非小細胞肺がん患者の術後生存率は、医療の進歩により改善しているが、一部の患者では依然として不良だ。このような患者の術後経過を良好にするために、患者の術前状態を正確に評価し、術後の経過を予測する手段を開発する必要がある。
サルコペニアは、加齢や疾患により筋肉量が減少することで全身の筋力低下または身体機能が低下する状態を指し、フレイル、転倒、日常生活動作の障害、生活の質の低下、死亡などと密接に関連していることが先行研究にて報告されている。また、運動耐容能(持久力)の低下は、サルコペニアと同様に非小細胞肺がん患者の術後経過を不良にすることが知られている。
今回、研究グループは、非小細胞肺がん患者において術前の身体機能を総合的に評価し、サルコペニアと運動耐容能低下の状態は術後経過にどのような影響をおよぼすか、またこの両方の状態を認めた患者の死亡リスクはどのくらいかを明らかにすることを目的に研究を行った。
従来の方法+術前身体機能の総合的評価が患者の術後経過予測に重要
今回、非小細胞肺がん患者を対象とした観察研究を実施。術前の身体機能評価として、サルコペニアと運動耐容能低下の有無を調査した。サルコペニアは、術前の胸部CT検査より得られた画像を用いて第12胸椎の高さにある脊柱起立筋の骨格筋量が低値であった場合に「サルコペニアあり」と判定した。運動耐容能低下は、6分間歩行試験の結果が400m未満であった場合に「運動耐容能低下あり」と判定した。また、対象患者の術後経過を調査し、追跡調査中に死亡したかどうかを記録し、解析した。
同研究の対象患者587例(平均年齢69歳、男性が68%を占める)のうち、26%の患者はサルコペニアのみを、9%の患者は運動耐容能低下のみを、7%の患者はその両方の状態を持つと判定された。低体重(Body mass index18.5未満)の患者は、この両方の状態を有する割合が高値だった。
追跡期間中(平均追跡期間3.1年)、死亡は109例で発生。サルコペニアと運動耐容能低下のどちらも認めない患者を基準とすると、サルコペニアのみ、運動耐容能低下のみ、その両方を持つ患者の死亡リスクはそれぞれ1.78倍、2.26倍、3.38倍だとわかった。また、年齢、性別、喫煙歴、がんの進行度、呼吸機能などの従来知られている予測因子のみから死亡のリスクを予測する場合と比較して、これらの因子に「骨格筋量と運動耐容能」という情報を追加して予測すると、術後2年以降においては死亡の有無の予測に有用である可能性が示唆された。
以上の結果から、非小細胞肺がん患者において、術前にサルコペニアと運動耐容能低下を認めた患者は予後が悪いこと、従来の方法に加えて術前の身体機能を総合的に評価することは患者の術後経過の予測に重要であることが明らかとなった。
今後、患者に対してどのような介入を行うべきかなどを明らかに
今回、研究グループは、非小細胞肺がん患者において、術前のサルコペニアと運動耐容能低下を持っていることが中長期的な死亡リスクを高めることを明らかにした。
同研究により、従来の医学的な評価に加えて術前の身体機能を総合的に評価することは、患者の術後経過の予測に重要であることがわかった。これは、術前のリスク層別化や、各患者に適した治療法の選択に役立つことが考えられる。今後、これらの患者に対してどのような介入を行うべきか、介入を行うことで死亡率が低下するかを明らかにする研究へと発展することが期待される。
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