エクソソームに着目し、血中バイオマーカーを探索
大阪大学は3月8日、慢性閉塞性肺疾患(COPD)において、血中を流れる細胞外小胞(エクソソーム)のタンパク質網羅的解析により、肺の伸び縮みを担う弾性線維の成分ファイブリン-3(Fibulin-3)を新規バイオマーカーとして同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科大学院生の木庭太郎氏(博士課程/医学部附属病院 医員)と武田吉人准教授(呼吸器・免疫内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「ERJ Open Research」に掲載されている。
画像はリリースより
たばこの煙を主とする有害物質が原因で発症するCOPDは、世界の死因第3位と推定され、国内500万人以上の患者が推計されているものの、病院で治療を受けている患者は22万人(5%)程度。診断には呼吸機能検査(スパイロメトリー)が必須とされているが、十分に実施されていないのが現状だ。治療法として、長時間作用性の気管支拡張剤があるものの、未診断のまま放置されるケースも多くある。COPDは肺炎や肺がんの危険因子であるのみならず、新型コロナウイルス肺炎の重症化因子であることも注目を浴びている。このような背景から、呼吸機能検査をしなくても診断できる有用なバイオマーカーの開発が喫緊の課題だった。
血液(血清)は、最も簡単に診断や病勢を測定できるサンプルだが、アルブミンなど夾雑物が大量に含まれるために未知の分子を探索する網羅的解析には不利だった。最近、血中を流れるエクソソームが、細胞や組織間コミュニケーション手段として機能しており、がんの早期発見や治療への応用が注目されていた。とりわけ、脂質二重膜で囲まれたメッセージカプセルであるエクソソームは、タンパク質の網羅的解析(プロテオミクス)に有利な理想的サンプル(リキッドバイオプシー)とみなされることから、研究グループは血清エクソソームに着目し、新規バイオマーカーの探索を試みた。
プロテオミクスを駆使しファイブリン-3を同定、相関を確認
研究グループは、COPD患者およびCOPDマウスの血清エクソソームの解析から、共通のバイオマーカー20種類を絞り込み、最新のタンパク質網羅的解析(プロテオミクス)を駆使したアプローチにより、新規バイオマーカーの同定に成功した。特に、肺の弾性線維成分であるファイブリン-3は、COPD患者で増加するだけでなく、呼吸機能低下やCTで検出される肺気腫と相関することがわかった。
さらに、ファイブリン-3を欠損させたマウスを作成し、解析した。その結果、欠損マウスは、加齢とともにCOPDを自然発症することから、ファイブリン-3がCOPD発症における鍵分子であることが示唆された。
今回の研究成果により、取り残された21世紀の国民病COPDの患者が、未診断のまま放置される機会が減少し、COPD治療薬により健康な生活を過ごすことが可能となる。また、新型コロナウイルス肺炎のリスクとされるCOPDを早期に発見し、COPD治療薬による恩恵を届けることが可能となる。さらに、発見された新規バイオマーカーについて研究グループは、「COPD病態形成と密接に関わるため、新規治療薬開発につながることも期待される」と、述べている。
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・大阪大学 ResOU