円形精子細胞卵子内注入法を受けた妊婦の症例
千葉大学は3月11日、非閉塞性無精子症の治療により妊娠した患者が、全胞状奇胎を発症したことを初めて確認し、この症例はこれまで報告されていた全胞状奇胎と異なり、精祖細胞に由来をもつことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院婦人科の碓井宏和准教授と医学研究院生殖医学の生水真紀夫教授によるもの。研究成果は、「New England Journal of Medicine」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
非閉塞性無精子症は、精巣内の精子をつくる機能に障害がある男性不妊症の一つ。その治療法として、精巣内から円形精子細胞を採取し、卵子内に注入する円形精子細胞卵子内注入法が知られている。この治療法は、顕微鏡下精巣内精子回収法で精子が見つからない場合に行われる。精巣内から円形精子細胞を採取し卵子内に注入する治療法で、90人以上の健児の誕生が報告されている。
SNPアレイの解析により精祖細胞に胞状奇胎発生のポテンシャルがあると判明
研究グループは、非閉塞性無精子症の治療により妊娠した患者が、全胞状奇胎を発症したことを初めて確認し、特徴を明らかにするため、詳細に解析した。
全胞状奇胎組織、患者および夫の血液からゲノムDNAを抽出し、一塩基多型(SNP)アレイで解析したところ、精子由来の通常の全胞状奇胎と異なり、減数分裂開始前の精祖細胞由来であったことが明らかになった。このことから、減数分裂開始前の精祖細胞(の一部の細胞)にも、胞状奇胎発生のポテンシャルがあることが示された。円形精子細胞と精祖細胞の区別は難しいとされているが、今回の症例は、精祖細胞が選択された結果であると考えられた。
より安全な円形精子細胞卵子内注入法が行われることに期待
また、精祖細胞由来の全胞状奇胎は、病理組織所見・臨床経過・hCG産生能・抗がん薬への感受性などの点で、通常の全胞状奇胎と同じ特徴を持っていた。患者は、絨毛細胞が肺や子宮筋層などに転移・浸潤をきたす侵入奇胎を発症したが、化学療法で治癒した。
「今回解析に用いた方法で、精粗細胞由来の全胞状奇胎の診断が可能になった。より安全な円形精子細胞卵子内注入法に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
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