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二次進行型多発性硬化症、血液診断マーカー候補を発見-NCNP

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2021年03月11日 PM12:00

診療が複雑なSPMS、有用なバイオマーカーが求められる

(NCNP)は3月9日、進行期にある多発性硬化症の早期発見に有用な血液診断マーカーを発見したと発表した。この研究は、NCNP神経研究所免疫研究部のベン・レイバニー研究員、佐藤和貴郎室長、大木伸司室長、山村隆部長らの研究グループが、NCNP病院・脳神経内科、同多発性硬化症センター、同放射線診療部および同臨床検査部との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

(MS)は、免疫系が自身の中枢神経系を攻撃することで発症する自己免疫疾患の1つ。主に髄鞘が障害される再発寛解型(RRMS)では、「再発:炎症性脱髄の悪化」と「寛解:炎症と脱髄の改善」を繰り返すことが特徴だが、病歴が長くなったRRMS患者の一部は二次進行型多発性硬化症()に移行する。SPMSでは脱髄に加えて神経組織の変性が起こり、神経障害は不可逆性に進展する。進行したSPMS患者の脳萎縮は顕著であり、それに伴い歩行困難、認知機能障害など、重篤な中枢神経症状を呈する。RRMSで有効性が確認されている薬剤はSPMSには効果がない。

SPMSの診断根拠としては、再発に関係ない神経障害の進行(progression independent of relapse activity; PIRA)を確認することが求められる。脳神経内科の臨床では、年1~2回の神経症状評価尺度(EDSS)の評価値の変動などを参考にSPMSと診断するが、PIRAの確認は容易ではなく、主治医がSPMSの診断を確定するまでに要する期間は年単位になっており、治療機会の喪失につながっていた。SPMS病態を的確に反映するバイオマーカーが利用できればSPMSの診療は現在よりもはるかに容易になることから、バイオマーカー研究が世界各国で展開されてきた。

なお、SPMSの症状の進行速度は、必ずしも一定ではなく、安定期と進行期が確認できるケースが多いことが認識されるようになっているが、このこともSPMSの診療を複雑にする要因になっている。

病原性細胞「」はバイオマーカーになり得る

研究グループはこれまでに、独自に開発したSPMSマウスモデルにおいてエオメス陽性ヘルパーT細胞が病原性細胞であることを示した。SPMS患者の一部で血液中のエオメス陽性ヘルパーT細胞の増加を確認したが、大規模な研究で、その意義を確認する必要があった。そこで今回、RRMSとSPMSだけでなく一次進行型MS(PPMS)も含む、多数例での解析を進め、エオメス陽性ヘルパーT細胞がSPMSのバイオマーカーとなり得るか、エオメス陽性ヘルパーT細胞の末梢血中の頻度(Eomes頻度)の多寡がSPMS病態とどのように関連するのか、について調べた。

その結果、SPMS患者のEomes頻度は他群に比較して有意な高値を呈し、その分布は健常人やRRMS患者と重なるピークと、頻度がより高く広域に分布するピークの2つのピークからなることがわかった。

Eomes頻度はSPMSで顕著に増加、SPMSの進行速度と有意に相関

計算から得られたカットオフ値(=13%)を超える患者(Eomes-hi群)はほぼ全例がSPMS患者だったが、ほぼ同数のSPMS患者がカットオフ値以下(Eomes-lo群)だった。SPMSの症状の進行速度は必ずしも一定ではなく、安定期(stationary phase)」と「進行期 (progressive phase)」が確認できるケースが多いことは、先に述べたが、次にこのEomes頻度の高低が、SPMS患者のどのような病態を反映するかを調べるため、SPMSの診断に用いるEDSSの1年間の変動量をΔEDSSと定義し、この値が0を超える患者をprogressive群(P群)、0以下の患者をstationary群(S群)として2群のSPMS患者の比較を行った。

その結果、P群のEomes頻度はS群と比較して有意に高値を示し、先のEomes-hi群とP群、Eomes-lo群とS群の大部分がオーバーラップすると判明。ROC曲線(AUC=0.8276)から計算されたカットオフ値(=12.1%)は先のカットオフ値(13%)とよく一致しており、この値を用いてSPMS患者を分類すると、Eomes-hi群の80%以上がP群に分類されることがわかった。したがってEomes頻度がSPMS患者の障害進行度の良好な指標となる可能性が示された。さらに複数回の診断でP群からS群(P→S)、またはS群からP群(S→P)と変化したSPMS患者と、P群のままであったSPMS患者のEomes頻度を調べたところ、P→Sの患者では有意なEomes頻度の低下、S→Pの患者では有意なEomes頻度の上昇が認められ、P群→P群では特定の傾向を示さないことがわかり、Eomes頻度が患者の障害進行度と相関してダイナミックに変動することが明らかとなった。

さらにMRI画像の解析から、Eomes-hi群のSPMS患者ではEomes-lo群に比べて灰白質の容積が有意に低下しており、SPMS患者に認められる灰白質の萎縮および重症度とEomes頻度の関連も明らかとなった。

SPMS患者の死後脳におけるエオメス陽性ヘルパーT細胞浸潤の証明にも成功

SPMSモデルマウスの脳脊髄組織や、SPMS患者の脳脊髄液中のEomes頻度は明らかに増加するが、エオメス陽性ヘルパーT細胞がSPMS患者の脳実質内にどのように分布するかは不明だった。そこで次に、SPMS患者死後脳を対象に、分離した単核球画分を定法に従って抗体染色し、フローサイトメーターを用いてエオメス陽性ヘルパーT細胞の動態と中枢神経病理との関連を調べた。興味深いことに、脳実質内のTh細胞は、大部分がEomes陽性かつGranzyme B陽性であり、特に前頭葉あるいは後頭葉のnormal-appearing white matter(NAWM)でEomes陽性細胞の割合が最も高く、皮質の病変部位にも多くのEomes陽性Th細胞が分布していた。一方、対照として用いたパーキンソン病患者由来脳組織ではそもそもTh細胞がほとんど検出されないことがわかった。さらにSPMS患者の障害進行度とEomes頻度が極めてよく相関すること、およびエオメス陽性ヘルパーT細胞はSPMS患者の中枢神経系に広範に分布し、その多くがGranzyme B陽性の細胞障害性であることが明らかとなった。さらにSPMS患者末梢血中のエオメス陽性ヘルパーT細胞も、その大部分がGranzyme B陽性であり、刺激に伴ってGranzyme B産生を引き起こすことも明らかとなった。以上の結果は、SPMS患者のエオメス陽性ヘルパーT細胞およびGranzyme B陽性Th細胞が、神経細胞障害に直接関わる可能性を示すものだという。

今回の研究結果から、ヒト末梢血中のEomes頻度が、SPMSの病態進行度と極めて良く相関することが明らかとなり、同細胞はSPMS病態のリアルタイムのモニタリングを可能にする画期的なバイオマーカーであることが示唆された。「今後は多施設共同研究による多数サンプルの大規模解析を実施することで、SPMS患者の病態進行度のリアルタイム評価法を確立した上で臨床現場への普及を目指すことにより、より的確なSPMSの精密医療の実現に近づくことが期待される」と、研究グループは述べている。

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