PAHの発症・重症化に環境因子がどのように関わっている?
国立循環器病研究センターは3月9日、肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary arterial hypertention:PAH)の発症・重症化で、芳香族炭化水素受容体(AHR)の活性化が重要な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究センター血管生理学部の中岡良和部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
PAHは肺高血圧症のひとつで、心臓から肺に血液を送る肺動脈に狭窄や閉塞が生じて肺動脈圧が上昇する疾患であり、最終的には心不全(右心不全)へ進行する予後不良の難治性疾患。これまで、PAHの発症には遺伝的な因子だけでなく、環境因子や炎症の関与も重要であると考えられてきた。しかし、環境因子がどのような形でPAHの発症・重症化に関わっているのかは不明だった。
一般に、環境ホルモン受容体として知られるAHRは、生体外から取り込まれる化学物質の解毒に関わる酵素を発現誘導し、炎症性シグナルをコントロールする。このことから、AHRとPAH発症・重症化との関係を検討することとした。
AHRや関連分子への阻害剤、重症PAH治療薬として有望であることを示唆
まず、PAH患者と健常者のボランティアより得られた血液がAHRをどの程度活性化させるのか検討したところ、PAH患者の血液の方がAHRを強く活性化し、AHRの活性化能が高い患者ほど重症で予後が不良であることが明らかとなった。
また、ラットに、代表的なAHR活性化物質6-formylindolo[3,2-b]carbazole(FICZ)を投与すると重症PAH患者と同様の血管病変を伴う、重症のPAHが誘導された。そこで、AHRを欠損させたラットを作製し、既存の方法で重症PAHを誘導したが、PAHは起こらなかった。つまり、重症PAHの原因がAHRであることが明らかになった。
続いて、近年注目されている薬剤誘発性PAHの一つである青黛誘発性PAHの原因であることも、明らかにした。網羅的な遺伝子発現解析などから、血管内皮細胞と骨髄由来細胞のAHRの活性化が炎症性シグナルを活性化させることでPAHを誘導していることもわかったという。
以上の結果から、血液が有するAHR活性化能の測定が、PAHの予後を予測するバイオマーカーとなり、AHRやその関連分子に対する阻害剤が重症PAHの治療薬として有望であることが示唆されたとしている。
症例の早期発見、治療薬や予防薬開発につながる可能性
現在、PAHに対しては、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬、プロスタサイクリン受容体作動薬などが使用されているが、これらの薬剤を使用しても病気の進行を抑制できない症例が存在し、治療応答性の低い症例の予後は依然として不良であることが知られている。
同研究で得られた成果は、こうした症例の早期発見と、治療薬や病気の進行の予防薬の開発につながる可能性を示している、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース