国内で年間400件実施のFontan術、術後の肝線維化の適切な評価が急務
大阪市立大学は3月4日、Fontan術後の長期経過における合併症として、従来の検査手法(超音波エラストグラフィや血液検査)では的確な評価が難しい特異な肝線維化の進展が認められることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科発達小児医学の徳原大介准教授、趙有季医員らの研究グループが、大阪市立総合医療センター、久留米大学医学部、近畿大学奈良病院による共同研究として行ったもの。研究成果は、「Hepatology Research」に掲載されている。
画像はリリースより
Fontan手術は、先天性の複雑心疾患に対して国内では年間約400件、米国でも年間約1,000件行われる頻度の高い心臓手術。Fontan手術の術式のさまざまな改良や周術期管理の改善によって術後周術期・早期死亡率が著しく減少した結果、長期的な術後合併症(不整脈、肝硬変、肝細胞がんなど)がみられることがわかり、それら合併症への対応が重要な課題とされている。Fontan術後の肝線維化・肝硬変はここ10年ほどの間に国内外で注目されるようになったが、術後の肝線維化の評価に対する適切なアプローチが確立されておらず、術後肝線維化の実態の把握や診断法の確立が急務となっている。
今回、研究グループは、22名の術後患者(術後中央値14.7年)から肝組織を採取し、従来の検査手法(超音波エラストグラフィや血液検査)が組織学的な線維化の程度を反映するのか検討した。
従来検査手法では正確な評価が難しい特異な肝線維化が高率で進展
その結果、まず、術後の長期経過において、類洞拡張と類洞域から門脈域へ進展する線維化がみられた。中程度の線維化が約半数に、高度な線維化が約3割にみられた。術後、中心静脈圧が上昇し、それに伴い類洞が拡張し、類洞域から門脈域へ線維化が進展すると考えられるという。なお、肝硬変の原因としてよく知られるC型肝炎やB型肝炎では門脈域を中心とした線維化がみられるため、Fontan術後の肝線維化は特異なパターンを示すと言える。
また、痛みを伴わずに肝線維化を評価できるツールである超音波エラストグラフィによる肝硬度は、術後の肝線維化の程度を的確に反映できないことが判明。肝硬度(肝臓の硬さ)は術後年数に伴って上昇しプラトーに達する傾向にある。しかし、肝硬度はFontan術後の肝線維化スコアと有意な関係性がない。肝硬度は門脈圧と関連する傾向が認められ、そのため線維化スコアとの関連性が低下する可能性が考えられるという。
さらに、日常診療で用いられる血液検査による線維化マーカーは、術後の肝線維化の程度を的確に反映できないと判明。ヒアルロン酸、4型コラーゲン7s、APRI、FIB-4 Index、FibroTest など日常診療で用いられる線維化マーカーは、Fontan術後の肝線維化スコアとの関連性が認められなかった。M2BPGi(Mac2 Binding Protein Glucosylation Isomer)は術後肝線維化スコアと逆U字形の有意な関連性が認められたが、実臨床で用いられる関連性ではない。
術後少なくとも10年以降は肝合併症について専門機関での定期受診が望ましい
結論としては、Fontan術後の長期経過における合併症として、従来の検査手法(超音波エラストグラフィや血液検査)では的確な評価が難しい特異な肝線維化の進展が認められる。したがって、術後患者は少なくとも術後10年以降は肝臓の合併症の有無について専門的な医療機関で定期的に受診し、有用なバイオマーカーや画像検査手法が確立されるまでは、従来検査による肝線維化評価の信頼性に注意を払い、場合によっては肝生検による組織学的な検査を受けることが必要とされる。
研究グループは、「今回の研究を通じて得られた肝組織と血清を有効活用し、Fontan術後の肝線維化を的確に評価しうる世界初の新規バイオマーカーの探索を進め、国内に数千人いるとされるFontan術後患者の肝臓診療のために役立てたい」と、述べている。
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