抗がん剤で骨髄細胞減少後、造血前駆細胞が盛んに分裂するメカニズムは?
大阪大学は3月8日、骨髄中の2型自然リンパ球が、抗がん剤治療後の骨髄傷害を感知し、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)を分泌することで血球数の回復に関わることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の數藤孝雄助教、石井優教授(IFReC免疫細胞生物学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Experimental Medicine」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
白血球などの血球細胞は、骨髄内に存在する造血前駆細胞から産生される。通常は、作られる細胞と壊される細胞のバランスがとられ、骨髄の細胞数はほぼ一定の数に保たれている。しかし、抗がん剤治療を受けると、副作用として骨髄中の血球細胞が大きく減少し、感染症リスクが上がる。そのため、骨髄内では生き残った造血前駆細胞が盛んに分裂し、血球を増やそうとするが、これまでそのメカニズムは明らかでなかった。
抗がん剤治療後の血球回復が生じるメカニズムを明らかにすることで、骨髄での造血システムの解明が進み、血球細胞を増やすことを目的とした臨床応用にも役立つと考えられる。
骨髄で細胞死<2型自然リンパ球がGM-CSF分泌<造血細胞回復
今回、研究グループは、生体イメージング技術を用いて、抗がん剤投与後の骨髄に移植された造血前駆細胞の動きが通常と異なることに着目。この造血前駆細胞の遺伝子発現を網羅的に調べることによって、抗がん剤投与後の骨髄環境からGM-CSFの刺激を受けて増殖していることがわかった。
続いて、「1細胞RNA解析」を用いて、各細胞の遺伝子発現を詳しく調べたところ、2型自然リンパ球がGM-CSFを分泌していることを突きとめた。このリンパ球は、普段活発にGM-CSFを分泌していないが、骨髄の中で細胞死が起こるとそれを感知し、GM-CSFの遺伝子発現を上昇させることが判明。
2型自然リンパ球をマウスの骨髄から採取して培養し、体外で増やし、抗がん剤投与後のマウスに移植すると、造血細胞の回復が早まることがわかったという。
抗がん剤治療や骨髄移植後の白血球減少症の治療法開発に期待
生体は元々、抗がん剤で傷ついた骨髄を再生させる能力を有する。今回の研究では、その再生メカニズムの1つが明らかとなった。
同研究成果により、血球細胞を体外で増やす方法の開発や、抗がん剤治療や骨髄移植後の白血球減少症の治療法開発に役立つと考えられる、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学免疫学フロンティア研究センター プレスリリース