日本における成人ネフロン癆の現状は?
東京医科歯科大学は3月2日、腎生検にてネフロン癆(ろう)が疑われた患者を対象に遺伝子解析を行い、世界で初めて成人におけるネフロン癆の臨床的特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の蘇原映誠准教授と藤丸拓也非常勤講師ら、筑波大学腎・血管病理学教室など日本全国の施設との共同研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Kidney International Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ネフロン癆は、小児期に末期腎不全に至る遺伝性疾患で、小児慢性特定疾病の1つ。従来は小児の病気と考えられていたものの、遺伝子を見ると成人で末期腎不全になった患者5,606人の約0.5%にネフロン癆が潜在していたことが欧州の国際共同研究により指摘されている。そのうち9割の成人症例は、正しくネフロン癆と診断されておらず、その原因の一つは成人ネフロン癆の臨床像やその特徴が不明なことだった。
ネフロン癆は成人の場合、小児と異なり腎外合併症が少なく、腎生検にて初めて疑われることが多くある。しかし、ネフロン癆の病理所見とされる尿細管拡張や間質の線維化は成人では他の疾患でも認められる。そのため、腎生検だけでは鑑別が難しく、成人患者における実態や臨床像は明らかにされていなかった。さらに、日本における成人ネフロン癆の現状は不明だった。
成人患者18人に網羅的な遺伝子解析を実施、7人はネフロン癆と遺伝学的に確定診断
研究グループはネフロン癆原因遺伝子を含む、遺伝性腎疾患の網羅的遺伝解析技術を開発。日本全国でネフロン癆など遺伝性腎疾患が疑われた患者を対象に網羅的遺伝子解析を行ってきた。
今回の研究では、全国のさまざまな施設の協力のもと、腎生検にてネフロン癆の可能性があると疑われ研究参加に同意が得られた成人患者18人を対象に、次世代シーケンサーを用いて網羅的な遺伝子解析を実施。その結果、7人はネフロン癆と遺伝学的に確定診断された。
ネフロン癆成人患者、腎生検時の年齢が有意に低く、尿細管の基底膜に厚い二重化
また研究グループは、臨床情報だけでは診断困難であった成人ネフロン癆患者の特徴を明らかにするために、ネフロン癆の遺伝子変異を認めた患者と認めなかった患者を比較した。
その結果、ネフロン癆と診断された患者は腎生検時の年齢が有意に低く、腎生検組織では、従来の小児ネフロン癆に特徴的とされていた所見は有用ではなく、ネフロン癆成人患者には尿細管の基底膜に厚い二重化を認めたという。
今回、腎生検にてネフロン癆が疑われた患者を対象に遺伝子解析を行い、成人におけるネフロン癆の臨床像を明らかにした。これらの結果は、日本でも原因不明な慢性腎臓病成人患者ではネフロン癆を疑う重要性を明らかにしたと同時に、新たに発見された臨床的および病理学的所見は成人ネフロン癆の診断の一助となり、今後の慢性腎臓病診療に繋がることが期待される、と研究グループは述べている。
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