脳梗塞後に一部領域で神経新生が生じる
東北大学は3月3日、脳梗塞マウスモデルにおいて、低出力パルス波超音波(LIPUS)が血管-神経新生を促進し、脳梗塞に対して治療的効果を発揮することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明客員教授、安田聡教授、進藤智彦助教、一條貞満医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
近年、神経疾患に対する新しい治療戦略として神経新生が注目されている。一度死滅した神経細胞は再生しないと長年考えられてきたが、成人した後も新しい神経細胞が生まれ続けており、脳梗塞やけいれんなどを発症すると神経新生が活性化し、障害部位の機能を補完しようとすることがわかってきた。
LIPUSは血管新生誘導、認知症の医師主導治験実施中
神経新生には血管からの栄養因子が重要であり、血管新生の促進は神経新生の基盤となることが示唆されている。血管新生促進物質の中でも、特に一酸化窒素(NO)は重要な役割を果たしている。これまでに、下川客員教授らの研究グループは、LIPUSがNO合成酵素の1つである内皮型NO合成酵素(eNOS)の発現や血管新生を誘導することを明らかにした。さらに、LIPUSが認知症マウスモデルにおいて認知機能低下を抑制することを見出し、現在、認知症患者に対する医師主導治験を実施している。
脳梗塞マウスモデルで、LIPUS治療で血管-神経新生惹起、神経学的後遺症軽減
今回の研究では、脳梗塞マウスモデル(中大脳動脈閉塞モデル)を用いて、LIPUS治療が血管-神経新生を促進することを示した。脳梗塞を作製した手術の翌日からLIPUS治療を受けたマウスでは、主に運動機能において神経機能の回復が認められた。さらに、LIPUS治療を受けたマウスにおいて、梗塞領域周辺の障害を受けた虚血組織における血管密度の増加、新生された神経細胞数の増加が認められた。
経時的に治療経過を観察した結果、血管新生に続いて神経新生が生じており、血管内皮細胞から産生される細胞遊走因子が神経新生を促進している可能性が示唆された。また、障害された脳半球の一部の領域(線条体)においては血管新生を促進する作用を持つ血管内皮増殖因子VEGFやeNOS、新生神経細胞を誘引する作用を持つ間質細胞由来因子(SDF-1)やC-X-Cケモカイン受容体4(CXCR4)の分子発現の亢進が認められた。さらに、eNOS遺伝子欠損マウスにおいて同様の検討を行ったところ、LIPUS治療の効果が消失したことから、LIPUS治療の効果がeNOSに依存するものであることが確認された。
今回の一連の実験結果から、LIPUS治療は、eNOSの活性化を介して血管-神経新生を促進し、脳梗塞後の神経機能回復に寄与する可能性が示唆された。「LIPUS治療による神経新生の促進作用は、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症など、治療法が確立していない他の神経疾患に対しても有効である可能性があり、今後、LIPUS治療の適応拡大が期待される」と、研究グループは述べている。
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