日本人の大規模サンプルを用いたADのGWAS
国立長寿医療研究センターは3月3日、日本人および欧米人の遺伝的多型情報を基にアルツハイマー病(AD)の新規関連遺伝子座位群を発見したと発表した。この研究は、同センターメディカルゲノムセンターの尾崎浩一部長、重水大智ユニット長らと、新潟大学脳研究所および東北大学東北メディカル・メガバンク機構の研究グループによるもの。研究成果は、「Translational Psychiatry」に掲載されている。
ADはそのほとんどが孤発性で65歳以上の高齢者に発症する。孤発性ADは、認知症の半数以上を占め環境因子や遺伝的因子が複雑に相互作用して発症することが知られている。遺伝的因子が発症に与える割合は非常に大きく、60〜80%程度であるといわれ、多数の遺伝的因子(ポリジェニック)がADの病因と進行に関係すると考えられている。染色体19番のApolipoprotein E遺伝子(APOE)のE4アレル(特定の遺伝子多型を持つ遺伝子座位)は、孤発性ADの最も高い遺伝的リスク因子として知られているが、残りの大部分の遺伝的リスク因子は未解明のままだ。
近年、欧米では大規模なゲノム解析研究が実施され、30か所ほどのAD関連遺伝子座位が発見されている。しかし、疾患の遺伝率を考えるといまだ多くの遺伝的リスク因子が存在すると考えられている。一方、日本人、欧米人など民族集団間における遺伝的構造は大きく異なることが知られており、欧米人で発見した遺伝的リスク因子のすべてが日本人にも当てはまるとは限らない。そこで研究グループは、日本人の大規模サンプルを用いたADのゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study:GWAS)を行った。
画像はリリースより
第4染色体上FAM47E領域に日本人に特有なAD関連を示す新規遺伝子座位を同定
研究では、同センターのバイオバンク(NCGGバイオバンク)のサンプル(AD患者2,974、認知機能正常者3,096)と新潟大学脳研究所のサンプル(AD患者988、認知機能正常者978)を統合して用いた。NCGGバイオバンクのサンプルは、東北メディカル・メガバンク機構で設計された「ジャポニカアレイ(R)」でジェノタイピングを実施し、同機構が構築した3,500人の日本人全ゲノムリファレンスパネルを用いて遺伝子型インピュテーションを行った。GWASは年齢と性別を考慮した統計解析により実施した。
その結果、示唆的有意性(P<5×10-6)を示した9つの関連遺伝子座位を発見した。9座位のうち2座位はAPOEとSORL1の既知の座位であったが、残る7座位は新規のものだった。これらについて異なる新たな日本人サンプル(AD患者:1,216例、認知機能正常者:2,446例)で再検証解析を行った。すると、ゲノムワイド有意性(P<5×10-8未満)を有する遺伝子座位として第4染色体上のFAM47E領域(rs920608、P=5.34×10-9、odds ratio=0.65、95%CI=0.57-0.75、1万1,692例)が同定された。この座位の特徴を調べたところ、東アジア人に特徴的な頻度を示す座位で、パーキンソン病との関連も報告されていたことがわかった。GWASの結果を用いた疾患に関係する分子パスウェイ解析では、ADに関係するアミロイド前駆体タンパク質の他に、メタロペプチダーゼやメタロエンドペプチダーゼといったタンパク質分解酵素の関連が新たに示唆された。
日本人と欧米人に共通してみられるAD関連の新規遺伝子領域を9つ同定
次に、GWASの検出力を増強して新たな関連遺伝子座位を同定するために欧米人データとの民族集団横断型メタ解析を実施した。欧米人データはIGAPの統計データを利用した。その結果26か所の有意性(P<5×10-6)を示す遺伝子座位を同定した。26か所のうち18か所はAPOEを含めた既知の座位で、残りの8か所は新規のものだった。日本人のGWASと同様、追加サンプルによる検証解析を実施したところ、OR2B2座位(rs1497526、Meta-P=2.14×10-8)がゲノムワイド有意性を有する新規の関連遺伝子座位として同定された。OR2B2座位は日本人および欧米人のメタ解析により同定されたことから、民族集団間共通のリスクであると考えられるという。さらに、これらの解析で最終的にP<1×10-5の有意性を示すAD座位として9個の新規遺伝子領域を同定した。
ADのリスク因子群を用いた新たな治療法や予防法の開発へ
今回得られた網羅的な解析情報は、日本医療研究開発機構(AMED)のAMEDゲノム制限共有データベース(AGD)および臨床ゲノム情報統合データベース(MGeND)に登録される。「疾患発症の遺伝的背景の特定は、ADの病因を理解するのに役立つとともに分子医科学、薬学的アプローチを組み合わせることにより、新たな治療法や予防法の開発につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立長寿医療研究センター ニュース&トピックス