80歳以上の脳梗塞患者での有効性・安全性は既報、90歳以上では?
国立循環器病研究センターは3月2日、大規模登録研究のデータベースをもとに、90歳以上の高齢者における急性期脳梗塞に対する血管内治療が、内科治療のみと比較して脳梗塞後の障害を軽減させる可能性を示したと発表した。この研究は、同大国立循環器病研究センター脳血管内科の藤田恭平医師(現 東京医科歯科大学)、脳卒中集中治療科の田中寛大医師、豊田一則副院長らを含めた国内多施設共同研究チーム「RESCUE-Japan Registry 2」(主任研究者:吉村紳一氏(兵庫医科大学脳神経外科)、坂井信幸氏(神戸市立医療センター中央市民病院脳神経外科))によるもの。研究成果は、「Stroke」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
脳梗塞は、脳に栄養を送る血管が閉塞することでまひや言語障害などの神経症状が現れる病気。特に脳の太い血管である脳主幹動脈が急に閉塞すると重症の脳梗塞を起こす。
カテーテル治療(血管内治療)は、脳主幹動脈の閉塞による脳梗塞の障害を軽減させる上で有効な治療法だ。この血管内治療は、80歳以上の高齢者においても有効かつ安全であることが過去に報告されていたが、より高齢である90歳以上の脳梗塞患者で、血管内治療が有効かつ安全に実施可能かどうかは、検証されていなかった。
回復患者の割合は血管内治療実施群28.6%、内科治療のみ実施群6.9%
今回の研究では、日本における脳主幹動脈急性閉塞症の治療実態とその成績を明らかにすることを目的とする多施設前向き研究「RESCUE-Japan Registry 2」に登録された患者のうち、90歳以上で内頸動脈あるいは中大脳動脈水平部が閉塞している患者150人を対象とした。対象患者を血管内治療実施群(49人)と、内科治療(薬物療法)のみを実施した群(101人)の2群に分類し、両群における脳梗塞発症3か月後の転帰(障害の程度)や、症候性頭蓋内出血(神経症状の悪化を伴う頭蓋内の出血合併症)の割合を比較した。
その結果、主要評価項目である、「3か月後に身の周りの事が自力で出来る、もしくは脳梗塞発症前と同程度の機能レベルまで回復する患者の割合」は、血管内治療実施群(28.6%)の方が、内科治療のみを実施した群(6.9%)よりも有意に多くなった。両群間の患者背景(年齢・併存疾患・脳梗塞の大きさ・重症度など)を統計学的に調整した解析でも、血管内治療実施群は内科治療群と比較して、転帰良好に関連していたという。
懸念される症候性頭蓋内出血の合併は、血管内治療実施群(0%)と内科治療群(3.9%)で有意な差がなかったとしている。
「90歳以上」の年齢のみで血管内治療の適応から除外すべきではない
今後、患者背景を合わせた前向きの臨床研究による検証は必要だが、90歳以上であっても治療適応を十分に検討すれば、脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対する血管内治療は、内科治療のみと比べて良好な転帰に繋がる治療になり得ると期待される。研究グループは、90歳以上という年齢のみで、血管内治療の適応から除外すべきではないと考えられる、としている。
また、90歳以上の高齢者の脳主幹動脈閉塞は、日常診療でもしばしば経験する。今回の研究結果は、血管内治療の実施を検討する際に参考となる報告であり、世界有数の超高齢社会である本邦より発信された貴重な研究成果だとしている。
なお、本研究は観察研究であり、結果の解釈の際にはバイアス(両群間の患者背景の偏りや治療方針を決定する際の各医師の恣意的な要素)への注意が必要だ、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース