東日本大震災による心理的苦痛、妊婦での経年変化を調査
東北大学は2月26日、東日本大震災後の被災地域(宮城県)における妊婦の精神的ジストレス(耐え難い心理的な苦痛を感じている状態)の有病率に関する経年変化を検証し、内陸地域では一貫して精神的ジストレスを有する妊婦の頻度が高かったことを発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科婦人科学分野/同大病院産婦人科の田上可桜医師、渡邉善助教、東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の目時弘仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Health and Preventive Medicine」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
母体の不安や抑うつは、早産、低出生体重、妊娠高血圧症候群などの周産期合併症や産後の育児障害、児の神経発達障害につながることから、近年は妊婦の精神的ケアが重要視されている。東日本大震災後、宮城県、特に津波の被害が大きかった沿岸地域では精神的苦痛を感じる妊婦の割合が高いことを報告してきたが、その後の経年変化については明らかになっていなかった。
特に内陸地域で精神的ジストレスを有する妊婦の割合が高かった
研究は子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の一環として実施されたもの。2011年~2014年にかけて日本で行われたエコチル調査の全国データのうち、宮城県の8,270人とその他全国13のユニットセンターの6万7,882人を含む7万6,152人の妊婦を調査対象とした。さらに宮城県は津波の被害の大きかった沿岸地域(3,255人)と直接的な影響は少なかった内陸地域(5,015人)に分類し、東日本大震災後3年間の妊婦の精神的ジストレス有病率を調査した。
その結果、東日本大震災後、宮城県の妊婦で精神的ジストレスを有する割合は改善しておらず(3.75%から5.14%)、さらに宮城県の内陸地域では全国13のユニットセンターと比較して一貫して精神的ジストレスを有する妊婦の割合が高いこと(4.50%から5.81%)がわかった。
また、妊娠期間中に精神的ジストレスを有するリスクを解析した結果、2011年前期の全国13ユニットセンターと比較して、宮城県の妊婦で精神的ジストレスを有するリスクが高く、特に宮城県の内陸地域で顕著にリスクが高いことがわかった。妊婦の精神状態と関連性の高い精神疾患既往(うつ病や不安障害など)や社会経済要因(年齢、学歴、収入、嗜好など)を加味した検討においてもリスクが高いままだった。
直接的な影響を受けた地域だけでなく、周辺地域も含めたより広範なケアが必要
今回の研究成果から、大規模災害後は、直接的な影響を受けた地域だけでなく、周辺地域も含めたより広範なケアが必要と考えられる。また、今回の調査では被災地域で妊婦の精神的ジストレスのリスクは改善しておらず、より継続的なフォローも必要であると考えられた。
「妊娠中の母親のストレスは注意障害、学童の知能指数の低下、および内面化と外面化の問題行動になど子どもの長期的な成長に影響を与えるとされている。大規模災害後は妊娠女性が不安なく過ごせる環境を維持し、被災地の周辺地域を含めた長期的な支援を行うことが重要。災害時に母子に焦点をあてた支援を行うためのシステムの構築が今後必要だ」と、研究グループは述べている。
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