播種巣の制御は、胃がん患者の予後改善で重要な課題
熊本大学は2月24日、がん関連線維芽細胞(CAFs)の細胞老化が、胃がん腹膜播種巣の進展に重要であることを、がん性腹水を用いた細胞分画の解析によって証明したと発表した。この研究は、同大国際先端医学研究機構(IRCMS)消化器がん生物学の安田忠仁研究員、小岩麻由医学科学生、同大学院生命科学研究部消化器外科学の馬場秀夫教授らの研究グループと、がん研究所、シンガポール国立大学との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
スキルス胃がんに代表される悪性度の高い胃がんは、腹膜播種を起こしやすく、播種巣の進展は予後に深く関わることがわかっていた。そのため、播種巣を制御することは、胃がん患者の予後を改善する上で重要な課題であると考えられてきた。
腹水中に老化関連タンパク質を長期間分泌するCAFsが存在、CAFsをターゲットとした新たながん腹膜播種の治療戦略に期待
研究グループがスキルス胃がん患者の術後検体から樹立した、がん関連線維芽細胞(CAFs)を用いて、ヒトの炎症環境を模倣した実験を行ったところ、CAFsはがんとその周囲の細胞から放出される炎症性物質(サイトカイン)によって、細胞増殖の停止、いわゆる細胞老化を起こしていることが判明。老化を起こした細胞は、がん細胞の進展を助ける老化関連タンパク質を分泌し続けることが知られている。そこで今回、このタンパク質が慢性的に分泌されるメカニズムとして、CAFsのエピゲノムの変化に注目した。エピゲノムとは、遺伝子機能のON/OFFを化学修飾によって後天的に調節する仕組みのこと。ゲノムをアセチル化やメチル化などで化学修飾することで、遺伝子機能を促進したり、抑制したりする。主にDNAが巻き付いているヒストンというタンパク質が修飾される。
詳細な遺伝子解析を行ったところ、実際に細胞老化を起こしたCAFsでは、特徴的なヒストン修飾の変化によって、細胞老化関連物質を形成する遺伝子の活性化が生じていた。その結果、老化CAFsでは、がん進展を促進する老化関連タンパク質を持続的に分泌していることを明らかにした。さらに、スキルス胃がん患者のがん性腹水において多様な細胞分画の解析を実施し、腹水中にも細胞老化を起こしたCAFsが存在することを解明した。
今回の研究成果により、胃がん腹膜播種による腹水中のCAFsの存在意義が明らかになった。同研究成果をふまえると、腹膜播種の進展を防ぐには、播種巣のがん細胞だけでなく、細胞老化を起こしたCAFsをターゲットとした新たながん腹膜播種の治療戦略が期待される。
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