医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > タキサン系抗がん剤副作用の末梢神経障害、発症原因を新たに同定-京大

タキサン系抗がん剤副作用の末梢神経障害、発症原因を新たに同定-京大

読了時間:約 2分59秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年02月26日 AM09:55

患者とマウス共通の発症メカニズムを見つけ、根本的な回避策につなげる

京都大学は2月25日、タキサン系抗がん剤(パクリタキセルやドセタキセル)の副作用の原因となる病理変化を新たに同定したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の今井哲司講師、中川貴之准教授、薬学研究科の小柳円花博士課程学生、松原和夫名誉教授らの研究グループが、医学部附属病院の川口展子特定病院助教と共同で行ったもの。研究成果は、「Cancer Research」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

近年、新しい抗がん剤が次々と開発されているが、依然として第一選択として使用されるタキサン系抗がん剤の副作用を抑えて安全に使用することも、がん薬物療法においては重要な課題だ。末梢神経障害は、タキサン系抗がん剤の投薬を受ける患者の50%以上で発症する副作用。末梢神経障害が重症化するとタキサン系抗がん剤の減量あるいは投与中止となり、がん治療成績に深刻な影響を及ぼす。これまで、この副作用の予防/治療のため、神経を保護できる化合物が候補薬として開発されてきたが、まだ実用化には至っていない。今のところ、末梢神経障害による痛みを抑制するために鎮痛薬などが使用されているが、著しい効果を示すものではない。唯一、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のデュロキセチンが有効性を示すことが確認されたが、あくまで対症療法薬としての位置付けであり、末梢神経障害の発生を予防/治療できるものではない。

このように、抗がん剤による末梢神経障害の根本的な回避策が未だ確立されない背景には、その発症メカニズムが十分に解明されていないことが挙げられる。これまでのモデル動物を用いた研究から、タキサン系抗がん剤の末梢神経障害発症に関わる多くの病理変化や原因分子が検討されてきた。しかしながら、患者においても共通して確認される現象は少なく、こうした現状が、末梢神経障害の原因治療・予防法の開発を遅らせる要因ともなっている。

そこで今回、研究グループは、これまでに注目されていなかった感覚神経軸索を被覆(髄鞘化)するシュワン細胞に焦点をあて、患者とモデルマウスで共通した末梢神経障害の発症メカニズムを新たに同定しようと試みた。

タキサン系抗がん剤処置に応答してシュワン細胞がガレクチン-3を血中に分泌

まず、ラットの末梢感覚神経組織からシュワン細胞という神経軸索を髄鞘化する細胞群を単離・培養し、タキサン系抗がん剤(パクリタキセルやドセタキセル)を処置することで生じる変化を観察した。その結果、シュワン細胞はタキサン系抗がん剤の処置に応答して、細胞の形や性質を変化させ(脱分化)、同時にガレクチン-3という分子を分泌するようになることが明らかとなった。また、タキサン系抗がん剤を反復投与した末梢神経障害モデルマウスを用いた検討から、シュワン細胞を由来とし、血中でガレクチン-3濃度の増加が起こることがわかった。今回の研究で特に重要なポイントは、こうしたモデルマウスで観察された血中ガレクチン-3濃度の増加が、タキサン系抗がん剤の末梢神経障害を発症する乳がん患者の血液検体でも同様に確認されたことにあるという。

血中ガレクチン-3<<末梢神経障害の一因となる神経炎症

また、マウスから採取した神経細胞やシュワン細胞を用いた検討から、血中に分泌されたガレクチン-3が、血中を循環する免疫細胞のマクロファージを感覚神経周囲に誘引して神経炎症反応を惹起することを発見。さらに、ガレクチン-3を欠損したマウスや、ガレクチン-3の阻害剤を投与されたマウスでは、タキサン系抗がん剤によって引き起こされるマクロファージの神経への集積や痛み行動が抑制されることが確認された。以上より、タキサン系抗がん剤の投与に応答して、神経周囲に存在するシュワン細胞から分泌されたガレクチン-3が、マクロファージによる神経炎症応答を引き起こし、これが末梢神経障害の一因であることが新たに明らかとなった。

今回の研究成果に基づき、京都大学医学研究科医学研究支援センターの協力の下、約2,500種類の医薬品および化合物をスクリーニングして、末梢神経障害の新規予防・治療薬候補が探索された。その結果、タキサン系抗がん剤によるシュワン細胞の脱分化や、ガレクチン-3分泌を強力に抑制する候補薬を複数同定することに成功しているという。さらに、タキサン系抗がん剤の末梢神経障害モデルマウスにおいて、痛み行動を抑制することも確認された。研究グループは、今後、これらの候補薬が末梢神経障害の新規予防・治療薬として有効か検証を重ね、実臨床での使用につなげたいと考えており、現在、血中ガレクチン-3濃度を測定することにより、末梢神経障害の重症度を定量化する方法の開発にも取り組んでいるという。研究グループは、「抗がん剤の末梢神経障害に対する根本的な予防・治療法の新規開発が進むことが期待される」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大