抗炎症作用や抗酸化作用、オートファジー活性作用をもつ「トレハロース」
北海道大学は2月24日、天然物質である二糖類の一種「トレハロース」を心臓に投与することで、虚血後の心機能を改善させることにはじめて成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院博士課程の安東悟央氏、同循環器・呼吸器外科学教室の新宮康栄講師、若狭哲教授ら、循環器・呼吸器外科学教室の研究グループによるもの。研究成果は、「Biochemical and Biophysical Research Communications」にオンライン掲載されている。
心筋梗塞や心臓手術後の心不全は、心臓の虚血が主な原因だ。さらに、虚血後の再灌流によっても心臓は大きなダメージを受ける。これらの障害を減らすことが、心不全を予防することにつながる。
多様な生理機能をもつ天然物質であるトレハロースは、他の二糖類とは違う特殊な化学構造をもつ。それゆえ、植物では不凍液としての働きが、動物では抗炎症作用や抗酸化作用などが報告されている。さらには、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士の研究テーマで知られる「オートファジー」を活性化させる作用も、トレハロースでは報告されている。
虚血状態にしたラットの心臓にトレハロースを投与、未投与群に比べて心臓の収縮力が増加
研究グループは、10週齢の雄のラットの心臓を用いて、35分間、トレハロースを2%の濃度で含んだ酸素化した生理的な液体で灌流し拍動させた。その後心臓の灌流を止め、20分間、完全に心臓を虚血状態にした。再灌流した後、60分間心臓を拍動させ、虚血前の心臓の収縮機能と比較した。
その結果、2%濃度のトレハロースで灌流を行った群では、トレハロースを使用しなかった群と比較して有意に虚血後の心臓の収縮力が増加したという。
今回研究グループは、はじめて心臓の虚血実験にトレハロースを応用し、心機能の改善に成功した。今後さらなるトレハロースの効果メカニズムに関する研究が必要だが、トレハロースは日々摂取する食材にも含まれている比較的安全な物質であることから、医療への応用が大いに期待される。「心臓が一時的に虚血になる心筋梗塞や心臓手術に応用できれば、心不全などの合併症を予防できる可能性も期待される」と、研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース